「これとー、あれとー、それとー…ん、あとはあれとあれがないだけかな」
は、服やら小物やらを床の上に並べて一人頷いた。
コンコン
ドアがノックされ、長逸が顔を出した。
「、準備するものは出せたか?」
「あ、うん、だけど…」
は、さっきメモを取っていた紙を長逸に見せる。
「これとこれがあったほうがいいかなぁって思うんだけど」
「ああ、そうだな…久秀も今日は早いし、あいつらもあれが足らんこれが足らんと言っているから後で買いに行こう」
「あれ?政兄さんも友兄さんも昨日荷造りしてなかったっけ?」
昨日、政康と友通は、家中をひっくり返しながらわいわい荷造りしていた。
長逸は、深く疲れた溜息をこぼした。
「お前が荷造りをしだしたら、暇だとか言ってな、荷を解き始めたんだ」
遠い目をしている長逸に、もこっそり息を吐く。
「下におりて、茶でも飲むか」
「うん、久秀兄さん早く帰ってきたらいいのにね」
長逸の後を追っても部屋から出て階段を下りていった。
松永一家、長男久秀次男長逸三男政康四男友通長女は、家族旅行に行くことになった。
九月一日から八日まで、場所は欧州。
決して奥州ではない。
久秀は、八月二十九日から九月九日まで休暇を取り、長逸も同じく、政康友通は夏休みで、は普通に学校を休む。
は、ちょっと休みたくなかったが、久秀が折角休暇を取ったということで強制的に参加を言い渡されていた。
「卿が行かないなどと言うわけがないともう予約してきてしまったよ」
はっはっはっは
と、が何かを言う前に言われてしまった。
(ああうん、かすがには言っておこう、うん、…テストって追試になるのかな、やっぱ)
休み明けの試験が気になるところだが、行くと決まってしまった以上どうにもできない。
極めつけに、
「行ってくれるだろう」
と、ちょっと寂しげな目で言われたらはお手上げだ。
(ずるいなぁ…っていうか一家で旅行とか久しぶりだ)
久秀がテレビ局に入社してからは、なかなか旅行と言ってもおいそれとできなかった。
だから、余計に全員で行くことを楽しみにしていたのかもしれない。
長逸に入れてもらったお茶を飲みながら、は思う。
「おい、兄、あれがない!あれが!」
「俺もあれがないー」
「お前等ちょっとは静かにやれんのか!あれならそこの箪笥だってさっき言っただろう!」
後ろの喧騒はあえて無視していた。
下におりてきたらおりてきたで、政康と友通がぎゃーぎゃー言いながら荷造りをしていた。
「兄のくせにー」
「ばーかばーか」
「んだと、きさまらぁぁ」
怒鳴った長逸に向かって政康が手にしていたティッシュの箱を投げつける。
が、長逸はそれを避けた。
その箱はそのまま、
ガンッ
帰ってきてドアを開けた久秀の額に当たって落ちた。
しーーーーーーーーーん
その瞬間、沈黙がその場を支配した。
「…あー、久秀兄さん、おかえりなさい」
が、とりあえず何か言わなければと久秀に声をかけた。
「…ああただいま。ところで、これを投げたのは誰かね?」
スーツの上着をに渡して、久秀は弟達のほうに向く。
長逸と友通は無言で政康を指差す。
「っごめん、兄に当てようと…すま、グハッ」
高速の神業で、政康の顔にティッシュの箱がめり込んだ。
そしてそのまま政康は後ろに倒れた。
ぱんぱんと久秀は手を払うと、に言う。
「卿は荷造りは終わりそうかね?」
「うん、後これとこれを買ってくるだけだと思う」
さっき長逸に見せたメモを見せて言う。
「そうか、卿らも終わってるかね?」
それを確認すると久秀は、今度は弟達に聞く。
「俺は終わっているが、こいつらがまだのようだ」
長逸がこいつらの部分で伸びている政康と政康を起こそうとしている友通を指差してそれに答えた。
「あ、でも、あと俺達も少し買い足せば終わるから問題ない」
友通が長逸の言葉に付け足した。
「それならさっさと政康を起こして出かけるとしよう」
奥で着替えながら聞いていた久秀が出てきて言い、起こされた政康が頷いて、一家で買出しに行った。
買い物途中で、久秀と犬猿の仲の片倉に会って一悶着あったりだとか、竹中と豊臣にばったり会って政康と友通が延々と喋り続けたとか(それに久秀がキレて置いてきそうになった)、長逸が担当の人に見つかって仕事の件で話があるとか言われて連れて行かれたりだとか色々あったが、なんとか目的の物を手に入れて家に帰ってきた。
「明日最終確認をするから各自そのつもりで、就寝」
「「「「はーい」」」」
皆が皆、疲れて荷物を其々片付けると同時に自分の部屋に入っていった。
「おやすみなさーい」
旅立つその日が待ち遠しいと思いつつ。