【Have a party♪】
三日限定の舞台は超満員で連日大盛況。
そんなこんなで無事千秋楽を迎えた舞台関係者には、観客が全員退場した後にささやかながらも宴の席が設けられた。
「えぇー、三日限定という短い間の舞台公演でしたが、無事に終わりなによりでした。初めてにしては大成功だったと思われ……思われ……」
宴会開宴前に壇上から語られる総監督のありがたいお言葉なのだが、騒がしい辺りを見回してみると誰も聞いてない。
なんだろう、は少しだけ悲しくなった。
「誰も聞いてないって酷いじゃないですか……あぁーっ、もうっ!もういいですよ!!」
総無視を食らわされて続けた所為か我慢の限界に達し、が壇上で地団駄を踏みならしながら喚きはじめる。
「皆さん、総監督がご立腹モードに突入されましたのでご注意ください」と言いたいところだが、これもまた総無視をされている為、のその状態に誰も気付いていない。
「政宗公っ、政宗公?どこにいらっしゃいますか?」
口調は丁寧なのだが獲物を狙うかのような獰猛な視線で辺りを見回し、今回の犠牲者であろう伊達を探し始める。
一体何を考えているのかは分からないのだが、目が完全に据わっているので既にアブない人になりかけているのだけは分かった。
その視線が目的の人物を捕らえる。
「あ、居た。出番ですよ、政宗公!!」
座り込んで片倉と談笑していた目的の人物、伊達をその視線の先に捕らえたは壇上の上からメガホンを使用して呼び掛けた。
に声を掛けられ、談笑を一時中断した伊達はその視線を彼女の方へと向け、呼び掛けに対して応じる。
「しゃあねぇなぁ〜、そこまで言うんなら「どうせ誰も聞いてくれてないと思いますけど、とっとといつもの開宴宣言しちゃってください!!」……真田といい、お前といい、俺に対する扱いがどんどん酷くなってねぇか?」
話の途中で随分と酷い暴言と思わしき言葉を吐かれた伊達が、常日頃と腹に溜めていた物を吐露する。
その言葉を聞いたが何を思ったのか、ふと伊達に合わせていた視線を上に上げた。
どこか遠い目をしている。
「気のせいだと思いたいと思っておいてください」
「思いたいって俺の希望かよっ!!ったく……」
しぶしぶといった風に伊達が立ち上がり、と入れ替わりに壇上へと上る。
しかし、どう装ったとしても開宴宣言したくて仕方ないのがバレバレなのは、まぁ、本人の名誉の為に伏せておいてあげた方がいいのかもしれない。
いや、もう、伏せておこう、うん。
壇上に上がった伊達が一同をぐるりと眺め、並々と液体が注がれている湯飲みを手に高々に掲げた。
ちなみに、伊達が手に持つ湯飲みの中に入っているのが湯気が立つことのない冷めたお茶だと思いたいのはの希望である。
「Are you ready guys?」
『yeah〜!』
やはり伊達政宗、このノリで開宴宣言ですか。
そして、武将やその他の方々も所属の軍など今は関係なく、伊達軍のノリで合いの手を打っている。
「の、ノリいいですねぇ〜皆さん。私の時は誰も聞いてくれなかったのに……なんだかんだといいながら皆さん、伊達軍のあのノリ結構好きなんじゃないですか……」
の呟きのような科白もまた誰も聞いていない。
ますます落ち込んでいくであった。
隅っこの方で膝を抱えて座り込みながらスンスンしているを放置しつつ、伊達がこの続きの言葉、宴の開宴を宣言する。
「Have a party!派手にやろうぜ!」
『Yaーhaー!』
ここに、『舞台が終わったよ、打ち上げパーリィだーっ!!』が開幕されたのだった。
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とある一角、そこにいたのは今回の舞台の総監督であると、その姿を他者から覆い隠すのに充分な巨体を持つ男。
二人の前に置かれているのは見事な装飾を施された漆塗りの小さな箱。
その中には器に負けない程の色鮮やかで豪華な菓子が一つ入っていた。
「なんじゃこれはっ?!」
「お約束の山吹色の菓子ですが?本願寺様」
「……菓子じゃのう。じゃなくて、拙僧が欲しいのは本物の「だから山吹色の菓子でしょう?本当に苦労しましたよ、菓子職人さんにここまで豪華にしてもらうのは。でもさすが信長公ご用達の方々ですね、実にいい仕事してますよぉ〜」…うぐぐっ」
話の途中だというのにに矢継ぎ早に話され、ぐうの音も出ないほどに畳み掛けられる。
交渉時にはっきりと言わなかった己が悪かったのか、今更「金を寄越せ」とも言えず、山吹色の菓子を受け取った本願寺はすごすごと隅っこの方で打ち上げに参加するのであった。
「フフフッ……本願寺様、貴方が望む本当の山吹色の菓子は、資金不足に喘ぐ我が松永軍の軍資金として使わせていただきますよ。ねぇ?兄」
「クックックッ、お主も悪よのぉ〜」
その場で立ち上がり、振り返りもせずには背後にいるであろう兄に声を掛ける。
その声に応えるように兄は言葉を返した。
そのやりとりは、まるで今後の劇中での一場面を思わせる風である。
「いえいえ、久秀様程ではありませんよ」
「それもそうか」
「「あーっ、はははははー……はぁ〜あ」」
そんな悪代官と越後屋、火付け盗賊改めと材木問屋の某時代劇に出てくるような悪役黄金コンビのやりとりをする二人。
その背後に迫る二つの影。
「松永様に言ってやろー」
「と兄があ〜んな事言ってたって」
「「言ってやろーっ♪」」
弟達のその言葉に動じることも無く、振り返ったが口の端を吊り上げニタリと嗤う。
「……弟、別に久秀様に言っても良いんだけどね、その代わり置物として工場長に造ってもらった小道具、本多忠勝の模型を貰えなくするよ。家康公辺りに高値で売りつけるからね」
「「俺達は、何も聞かなかったし、何も見なかった」」
物で釣ってうまいこと弟達を己の手中へと抱き込む。
やはり、恐ろしい子!!
だが、いい加減長曾我部の事を工場長と呼ぶのをやめてやれ。
「げ、現金な……」
「手の平を返すとはきっとこの事なのね」
あの精巧に造られた忠勝模型を貰えるという喜びに浸りながら、弟達は忠勝談義に花を咲かせながらその場から去っていく。
ちょっとだけ「自分も忠勝模型が欲しいなぁ」などと思いながら弟達の態度に呆れる兄と、同じく呆れながらその兄の横に並び立つ。
「今の会話久秀様に話されたら、どんな目に遭わせられることか……」
「まったくだ」
「聞こえているよ、三好に」
二人の肩に衝撃とその耳元で囁かれる声。
不意打ちされ、身を強張らせた二人は一気に顔面蒼白となる。
まぁ、一人は仮面に隠れて顔色を窺うことは出来ないが。
気配も無く、再び松永登場。
「あわあわあわ……」
「あ、あはは、はは……」
松永の凄まじい怒気を背中でひしひしと感じるせいか、決して振り返りたくはないと思う。
しかし、それはそれで話が先に進まないというもので、仕方なしにどうとでもなれというような投げやりな気分のまま、二人は引きつった笑みを浮かべて恐る恐ると振り返った。
よせばいいのにね。
「「ヒッ、ヒイイイィィィーーーーッ!!」」
やっぱり振り返らなければ良かったと瞬時に後悔した。
振り返ると、そこにあるのは目が笑っていない松永の笑顔と、どこからか取り出された多量の縄。
あぁ、死んだな。
「さて、二人共。覚悟はできたかね?なに、痛いのは始めだけだよ」
今はただ、貴方の笑顔が怖かった。
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絶望の淵に立たされた気分の。
そんなの霞がかった虚ろな視界に、颯爽と飛び込んでくる一つの影。
「か、かすがさん?!」
その影の正体、それは金の髪をなびかせた美貌のくのいち、かすがであった。
「!頼みがあるっ!!って……どうしたんだ?!その格好」
の目の前に飛び込んできた時点では気付かなかったのか、を見たかすがはそのあまりの姿に愕然とした。
驚くのも無理は無いだろう。
ここは舞台の上、しかもほぼ中央。
そこには後ろ手に脱出不可能な縛り方をされ、なつかしの(?)拷問器具「そろばん」の上に正座をさせられていると兄の姿があった。
「はぁ、ちょっと色々とありまして」
二人は首から「ただ今、猛反省中」や「私は悪い子です」といった板を紐で吊り下げ、その前には御丁寧にも「餌を与えないでください(期限:死ぬまで)」という看板まで立てられている。
兄とは違い、の膝の上に石が置かれていないのは松永のちょっとした優しさなのだろう。
逃げ出さないように固定はされているが、の話である。
ムゴイ、の一言につきる惨状。
とんだ晒し者だよ、アンタ。
「まぁいい、それよりも……」
「それよりもで片付けられたよ、この状態」
一応、突っ込みは入れるがその内容と声に覇気は無い。
それもこれも、長時間その拷問器具の上に正座をさせられ続けている所為だろう。
足は痺れて痛みは遠のき、の下半身の感覚は既に無かった。
「先程謙信様がおっしゃられたのだ『わたくしもぶたいにたってみたいものです』と!!」
「(見事に流されちゃったなぁ〜)いや、あの、それは……」
かすがの言葉にさらに窮地に追い込まれる。
(駄目だっ!謙信公が出るならもれなくかすがもついてくる。かすがと謙信公だったら絶対物語がベルバラになっちゃうよ!ムリ、ムリムリムリッ!!)
「頼む、っ!」
「だ、駄目もとでよかったら考えてみるけど……絶対期待しないでね。ホント、たぶん無理だと思うから、うん……」
「本当か?!では早速謙信様に報告せねばっ!!あぁ、謙信様ぁぁああ♪」
の返答に喜び勇んで白い羽を舞わせながら消えるかすが。
そのかすがの必死の願いを無碍にも出来ず、断ることのできなかったある意味お人よし、別名ヘタレなは舞い上がった白い羽を見つめながら一つため息を吐いた。
「兄ぃ〜、資金不足を解消しようと頑張ったのに、なぁ〜んで私達こんな目に遭ってるんだろうねぇ〜……」
先程から今まで口を閉じ、一切話さなかった兄がの問いかけに応えるように正面を向いたまま口を開く。
「……松永様の事で俺達が悪ノリしたからだろう?」
「そっか〜、そうだねぇ〜」
いやに間延びした返答をする。
おかしい。
普段の行動も少々おかしいといえばおかしいのだが、今回は何かが違う。
それが気になった兄は身動ぎ一つをするのも辛いという状態であるのに、の様子を見るために横に顔を向けた。
「おい、?!」
ヤ、ヤバイ。
その言葉だけが浮かんだ。
「一体どうしたんだ?おいっ!!」
「あは、あははははっ、兄ぃ〜、川の向こう側に綺麗なお花畑があるよ〜♪」
そこにありえない景色を見ているのか、は突然笑い出し、兄の必死の呼びかけに陽気に応える。
体が緩やかに左右に揺れだし、目が既に逝っていた。
「ま、松永様ーっ!弟ぉーっ!!が、があの世に逝きかけてるぞぉぉぉおおおっ!!」
「ちょっと逝ってくるねぇ〜♪」
「そっち側へ行くな、っ!音声じゃ分からんが、きっとそれ漢字が違うと思うぞ?!それだと戻ってこれないからっ!!」
「ウフフフフッ♪」
「誰か……誰か助けて下さぁぁああいっ!!」
どこかで聞いたことのあるお決まりの台詞。
舞台の中心で叫ぶ兄の姿がそこにあるのであった。
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宴会場の隅の方、漏れ出て来るのは嗚咽の声。
そこには座り込んで咽び泣く弟達と、横たわっているの姿があった。
のその顔には、白い布が掛けられている。
辺りには悲しみの色が漂っていた。
「って、勝手に殺さないでよ弟!悪趣味なんだからねコレっ!!うぅん、もうコレ悪趣味ってモンじゃないよ!コレもうイジメだよ、イジメの領域!!しかもなに?この布。水が滴ってるじゃない!殺す気?!私を窒息死させる気なのね!!」
顔に掛けられていた布を引っ掴むと同時に勢いをつけて上体を起こしたが、弟達に向かい怒鳴り散らす。
怒りの為なのか、それとも窒息していた為なのか、どちらかは分からないが顔を真っ赤にさせていた。
まぁ、その両者だろうけど。
「なんだ、もう起きたのか」
「もう少しいけると思ったんだけどなぁ〜」
「堪え性がないなぁ〜、は」
「ほんと駄目だなぁ〜、は」
悪趣味な悪戯を興じていた弟達が面白みがなくなったと口先を尖らせながら文句を言う。
あまりの言い様にの体が小刻みに震えだした。
のそんな様子を気にも止めなかったのか、弟達がとどめの一言を入れる。
「「もうちょっとがんばれ!」」
「何をっ?!」
突っ込みを入れた後、弟達から散々な事を言われたは何を思ったのか起こしていた上体を反転させ、その場に伏せた。
弟達はいい気なもので、今度は何をやらかすのかと思っての様子を眺めている。
体をうつ伏せ状態にし、一呼吸吐いたかと思った瞬間、は飛び起きてある方向に向かって駆け出した。
それは、某海辺の砂浜である意味争奪戦を思わせる遊戯を髣髴とさせるスタートダッシュであった。
「うわぁぁああん!久秀様ぁー、信長公ぉーっ!!」
「ばっ、ヤメローっ!!」
「なんでここで信長公?!」
「それは久秀様の上司だからぁーっ!!」
座り込んでいた弟達の制止を振り切り、が飛び掛るように抱きついた相手は松永ではなく、なぜか織田。
その瞬間、たまたま織田の側にいた松永のこめかみに青筋が立った。
「弟がっ、二人が私の命を狙う死神部隊と化してますぅーっ!助けてくださぁぁああーーっい!!」
「むぅ…」
「、それよりも信長公から離れたまえ」
「それよりも?!それよりもってなんですか!だったらアレを何とかしてくださいよ久秀様っ!!」
松永に向かって少々八つ当たり気味にそう言い放ったは、その場から動かない弟達に向かい指をさす。
もはや弟達はの中でアレ呼ばわりである。
八つ当たりと織田から離れないにイラだったのか、松永はの方を見ていた視線を弟達に向ける。
視線だけで死ねる!
「さて、覚悟はいいかね?二人共」
が二人に何を言いつけ、そしてこれから何をされるのか大体予想がついていた弟達は恐怖で腰が抜け、立ち上がることも、そして逃げ出すことも、もはや出来はしなかった。
「お、お許しを!松永様っ!!」
「ま、松永様っ?!その…多量の、縄…縄ぁっ!!」
ゆらりと弟達の方に体を向けた松永は、懐から器用にスルリスルリと縄を取りだしながら近付いていく。
手足をバタバタさせて逃れようとするが、それもかなうことなどあるはずも無い。
不機嫌を一切隠さない松永を正面から見た弟達は顔面蒼白となった。
仮面に隠れて表情は一切見えないだろうが。
「なに、多分痛くはしないから安心したまえ」
松永の操る縄が宙を舞う。
「「ギャアアアァァァーーーッ!!」」
弟達の悲鳴を聞きながら、先程まで抱きついていた織田から離れて側に立っていたが話しかけた。
「久秀様の縄捌きが日に日に上手くなっていくような気がするんですが、気の所為にしておいた方がいいですかねぇ?信長公」
「是非もなし」
「ここでその科白ですか。ところで、信長公。話は変わりますが、先日お話させていただきました例の企画についてなんですけれども」
「フン、例のアレか」
「えぇ、それです。それについて具体的な案が……」
松永の手によって奏でられる弟達の悲鳴という心地よい歌を聞きながら、と織田は会場にいるであろう者達を巻き込む壮大な計画を練るのであった。
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舞台中央から会場全体に響くうめき声。
それはまるで地獄の底から響いてくるようで、舞台全体に恐ろしげな雰囲気を漂わせるには充分なものであった。
誰かの少々見下し気味の視線と、無慈悲な言葉が降り注ぐ。
「フッ、悪趣味な事をするからよ。ザマァ見なさい、弟」
悪ふざけが過ぎたのか松永の手によって今度は弟達が後ろ手に脱出不可能な縛り方をされ、なつかしの(?)拷問器具「そろばん」の餌食になっていた。
しかも、その膝に置かれている石の量は、先程兄が置かれていた物の倍である。
それには若干松永の八つ当たりが入っているのかもしれないということは、まぁ、伏せておこう。
うん、怖いから。
「お、覚えてろ!」
「そうだ、あとで覚えておけ!!」
「自分のしでかした事を棚にあげてよくもまぁ……いいもん。今、この瞬間に忘れちゃったもん」
前回と兄がされたように、今回も弟達に首からは板を紐で吊り下げられている。
内容は先程の比ではないぐらいの酷いもので、板には「生きててスミマセン」や「生まれてきてゴメンナサイ」といった、見る者を絶望感に苛まさせるような文面が書かれていた。
その弟達の前には、これもまた前回と同じような看板が立てたれている。
やっぱりそこには比べ物にならないほどの酷い文面、「石を投げないで下さい(注:特に勢いをつけて)」と書かれていた。
なんだろう。
既に伏せておく気もなくなったのだが、八つ当たりの領域を超えていると思うのは気の所為なのだろうか。
もしかして現在加虐趣味全開ですか?
「さて、私これから総監督として他の人達にお礼とか挨拶とかしなきゃいけないから。じゃ、そう言うことで」
「「ちょ、待てよっ!」」
一部で有名な某人物の物真似らしき台詞を聞き流しながら、はお仕置き中の弟達を放置して歩きだす。
「アッフロフンフンフッ、アッフッロ〜♪…って、ぅん?」
時折鼻歌を交えた歌を歌いながら去っていくがすれ違い様に見かけたのは森の姿。
なんとなく今後の展開が読めたは口元に手を当ててほくそえみ、少しだけ弟達がいる方へと振り返った。
人間やるなと言われれば誰しもやりたくなるというもので、たまたま通りがかり、その看板を見た森が弟達に向かって穢れなき笑顔を浮かべる。
どちらかというと、ニッコリというよりもニヤリの方だが。
その笑顔と共にもたらされるこれからの惨劇を思い、恐怖に引きつる弟達。
そんな弟達に対し、無邪気に弟達に向かって勢いをつけて石を投げつけ始めた。
見事に人の心理をついたお仕置きですね、松永様。
「あははははっ、ゴミみてぇ♪」
ここでその科白ですか。
さすが魔王の子というのか、末恐ろしいお子様だこと。
森、恐ろしい子!
「おもしろそうだな!おれさまもやるぞ!!」
最悪の事態発生。
森だけでも大変だというのに固有技で石を投げてくる宮本が参加する。
もちろん宮本の投げつける石は固有技なので痛みは森の比ではない。
「「ギャアアアァァァーーーッ!!」」
断末魔のような、弟達の凄絶な悲鳴が舞台の中央であがった。
その悲鳴を聞きながら、は心にある思いを秘める。
「人間、何事も加減が肝心。程々が大事だ」と……。
「さて、弟への復讐も済んだことだし、今後の為にも挨拶回りでもしておかないとね」
今回の舞台でお世話になった方々への挨拶回りを始めようとする。
お礼回りと言わないのは、盗んだ軍馬で走り出す「窃盗罪上等!かかって来いヤァーっ!!」の暴走族を思わせるような某軍の前でその単語は禁句だろうと思ったからである。
国を挙げて犯罪ですか、アンタ。
お礼回りというその言葉を出した瞬間、確実にボコられそうだ。
そんなことはしないであろうが、はなんとなくそう思った。
思わざるを得なかった。
あぁ、怖い怖い。
「あ、居た居た。ウフフフフッ」
の視線が標的を確保する。
今度は一体誰が犠牲となるのであろうか。
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会場のやや中央寄り、しかし現在晒し者の展示場と化している舞台上ではない所から、何か言い争うような声が聞こえる。
「青いお侍さは、やっぱり悪いお侍だっただか!」
「No!って、やっぱりってどういう意味だ!!」
その声音から察するに、若い男と幼い少女のようだ。
その声に心当たりがありすぎるは、面白そうだとその渦中へと飛び込んで行った。
その生き様が素晴らしいね、ある意味だけど。
「どうかしたんですか?ようやく酔いが覚めた政宗公」
「Hahn?なんだよ、人の名前の前に付けたその嫌な枕詞は」
掛けられた声に反射的に伊達が顔を向けた。
そこにいたのは、嫌な枕詞にも一々突っ込みを入れる伊達とは一味違う素晴らしい生き様を見せた漢と書いてオトコと読むである。
その漢気の所為で近々武田道場にでも放り込まれないことだけは祈っておこう。
の登場で一波乱も二波乱もありそうな予感。
「まぁいい、それよりも丁度いいところに来た、。いつきに説明してくれよ。アレは俺であって俺じゃねぇんだって、playなんだってよ」
詳しい話を伊達から聞く。
どうやら伊達に招待され、劇を見ていたいつきは伊達のあまりの悪役っぷりにあれが伊達の本性だと思ってしまったらしい。
毛嫌いしていた侍の中で唯一人信じられた、信じていたはずの人物に裏切られた。
そう感じたいつきはまず伊達に詰め寄ったのだそうだ。
「伊達主従は、まぁねぇ。予想以上のハマり役だから、仕方ないよね」と、そう思ったとしても無理も無いだろう。
当の本人であるがそう思ってしまったのは、ここだけの秘密だ。
「あのね、いつきちゃん。世の中には触れてはいけない部分という物があってね、人には言えない隠し事だってあるの」
「じゃあ青いお侍さは」
「そう、そうなのよ……」
「何言ってんだぁ?っ!!いや、マジで。マジでWhat do you say?!」
顔を伏せて何やら意味深な科白を吐くに、たぶん南蛮語の使いどころがおかしくなっていることに気がついていない伊達が絶叫する。
伏せられたのその顔は影に隠れて二人からは見えないでいたが、影で見えない事を計算したは口の端を吊り上げニタリと嗤っているのだった。
なぜ伊達に対してがそういう事をするのか。
それは時は遡ること、多分ほんのちょっと前のこと。
開宴後に起こった、ある意味悲劇ともいえる出来事であった。
各軍のオカン達が腕によりを掛けて作った料理の数々をがじっくり堪能しようとしていたその時、たまたま伊達軍の所にいたのが悪かったのか顔を赤らめた伊達が現れた。
「よぉ〜う、。うぃ〜、ヒックっ」
その時、の脳裏を掠めた曲はなぜかRPG特有のモンスターが現れて戦闘シーンに突入する時のものだった。
モンスター扱いですか、伊達男よ。
いや、しかし、酔った伊達はそうではなかろうか。
「くっさ!お酒臭いですよ、政宗公」
「そりゃ〜そ〜だろ〜が、酒飲んでんだからなぁ〜……っく、うぃ〜」
「しかもコレ義弘公のお酒『鬼島津』じゃないですかっ!」
伊達の手に持つ酒瓶のラベルを見て、が目を見開いた。
あの島津の第7武器である『鬼島津』の名前を冠する酒である。
まともなアルコール度数ではないだろう。
「んん?おぉ!じゃなかね」
自分の名が聞こえた所為で伊達に絡まれていたの存在に気がついたのか、の姿を見た島津が近付いてくる。
「もオイどんの酒ば飲みんしゃい!」
「え、えぇっ?さらに絡まれた?!」
「そっだぁ〜。飲ま飲まイェ〜ィ、飲ま飲ま飲まイェ〜♪」
を捕らえた伊達は、酒瓶を片手に振り回しながら歌う。
「飲まイェ〜ィ♪っじゃ、なーいっ!なんで知ってるの?その歌。ってか、歌っちゃ駄目よその歌ぁー!白い猫がやってくるから!!酒瓶持ってやってくるからぁーっ!保護者どこ行ったー、片倉様ぁぁああーーっ!!」
伊達のオカンとも言える片倉を探そうと血眼になるが、どこかに行ってしまっているのかその姿が見当たらない。
前門の独眼竜、後門の鬼島津。
どうしよう、逃げられない。
そこにとどめとばかりにお祭り騒ぎが大好きなあの男が登場する。
「お?と島津の爺ちゃん、それに独眼竜じゃないか。どうだい?いい恋してるかい?」
「ああぁぁ〜〜、白い猫は来なかったけど、代わりに風来坊が来ちゃったよぉ〜」
曲名に恋という字が付くせいか、歌に引き寄せられるかのように登場したその男は、前田慶次その人であった。
「おぉ、慶次どん!慶次どんもオイの酒ば飲みんしゃい!!」
「いいね、いいねぇ〜♪も飲むだろ?」
「飲みませんよ!」
「ま、そう言わず飲め飲め〜♪」
「ゴブッ!」
の口に酒瓶を突っ込んだまま、三人は歌いだす。
「「「飲ま飲まイェ〜ィ、飲ま飲ま飲まイェ〜♪」」」
「ごばぁ…だ、だれが、だずげでぇ〜……」
前田に羽交い締めにされ、伊達によって強引に酒を飲まされて意識を失わんとする時、の脳裏に浮かんできたのは酒瓶を持ったどこかで見た事がある三匹の白い猫。
その風貌はあの白い猫そのものではなく、どこかの誰かを思わせた。
その猫達はそれぞれ酒瓶を持ち、飲めや踊れやと騒ぎまくっている。
その歌声はこの苦行を強いている三人組そのものであったそうな。
その後、意識が朦朧としていたはどこからともなく飛んできた縄によって引きずられ、その場から脱出する事ができた。
まぁ、その縄が首に掛かり、少しだけあの世を垣間見てしまったが、の話である。
「人間の裏に隠された本質なんて、久秀様以外にそう簡単に見破れるものじゃないのよ」
「松永は見破れるのかよ!すげェなオイ!!」
「黙れ伊達っ!」
「なんで呼び捨て?!しかも名字呼びっ?!」
突っ込みを入れる伊達を無視して話は進む。
「ちなみにいつきちゃん。この物語はフィクションであり、実在の人物、団体などにはいっさい関係ありません。総監督及び脚本担当の私が言うんだから間違いありません」
「青いお侍さ、そうだっただか?」
「そうなんだよ!fictionだ、fiction。この話は作り話なんだよ!!」
伊達とが話す南蛮語の部分は分からないようであったが、話の後半部分で今回の作り物であったとやっと理解する。
「……多分ね」
「やっぱり多分だかーっ!」
「テメェ!余計な事言って、これ以上話をややこしくすんじゃねぇぇぇえええっ!!」
酔った伊達達に絡まれた事が相当ムカついていたのか、の復讐劇は続いていく。
一国の主に対して、恐ろしい子!!
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一国の主がその地に膝を付き、頭を垂れている。
神様仏様片倉様、ありがとう!
本来ならばあってはならぬ事なのだろうが、家臣が仕える主に頭を下げさせるというその微妙な現象は、になんとも言いがたい優越感を与えていた。
「政宗様が色々とすまねぇ事をしたな、」
「いえいえ、片倉様が謝ることではありませんから。むしろ目の前にいる人がすることです」
「だからこうやって謝ってんじゃねぇか!!」
「それが謝っている人の態度なのですか?政宗公。下げた頭を踏まれてグリグリされないだけマシだと思ってください」
「政宗様、の言う通りですぞ。もう少し額を地面に擦り付けて謝られますよう。もし下げられないようでしたら、この小十郎が踏みつけて差し上げますが。いかがでしょうか?政宗様」
「小十郎ぉぉおお……あああぁぁぁ、ううぅぅ〜っ……」
伊達が地面に額を擦り付けている音を聞きながら、は現在に至までの経緯を思い起こしていた。
あれから誤解を招く含みのある話をいつきにしていただったが、本気で伊達に泣きつかれ、更にようやく騒ぎに気付いた伊達のオカンとも言える片倉の取り成しにより、嫌々ながらもはいつきの誤解を解いた。
なぜ、こういう事になったのかと片倉に問い立たされたは、多少話を省いたりしたが正直に言う。
酒を飲んで酔っ払った伊達に絡まれ、無理に酒を飲まされて(どこからか飛んできた縄が首に引っかかって)あやうく死に掛けました、と。
その直後、極殺モードに入った片倉により、稽古期間中に使用していた舞台裏にある『愛の説教部屋』という名の拷問部屋に連れて行かれた伊達は、しばらくの間その部屋から出てくることはなかった。
時折、妙な打撃音と悲鳴が聞こえてきたりはしたが、その事については深く追求するのはやめておいた。
だって、ほら、怖いから。
そこは多分「世の中には触れてはいけない部分」にあたるのだから。
その後、酔った伊達に絡まれた時の事は片倉の手によって伊達が土下座して謝るという事になり、一応の腹立ちは治まったわけだ。
「政宗公、もうその辺でいいですよ」
「What's?!もういいのかっ?」
「えぇ、私の気も晴れましたし、その辺で許してあげますよ。いいですよね?片倉様」
「がそう言うなら、俺はかまわねぇぜ」
ようやくに許された伊達は頭を上げ、膝頭の部分を払いながらその場に立ち上がる。
伊達の額に土だか砂だか小石だかが付いていたとしても、今回の件についての最後の復讐としてはそのまま黙っていた。
「さて、政宗様。行きましょうか」
「小十郎…?…」
「説教せねばならぬ事はまだまだありますので。さぁさっ、政宗様。いざや開かん、冥底の門」
「NoooOOO!嫌だぁぁああーーっ!!」
「片倉様っ?!それ信長公のBASARA技の科白「フハハハハハッ」……あぁ〜あ」
片倉は逃げ出そうとする伊達の襟首を掴むと、そのままあの恐ろしい『愛の説教部屋』という名の拷問部屋へと引き摺って行く。
これから起こる惨劇に抗い誰かに助けを求めるように、伊達の指が力なく宙を彷徨っていた。
「please!please,help me!!」
まだ終わってなかったんだ、説教。
なんとなくまだ終わってないんだろうなぁ、とは思っていたんだよ。
主である伊達に対して地面に額を擦り付けろと言ってみたり、前髪の一部がまだ垂れていたりしていたから。
魔王と化した片倉に連行されていく伊達の情けない姿を見て、は「飲むなら乗るな、乗るなら飲むな。酒は飲んでも飲まれるな」としみじみ思う。
そんなこんなでは、伊達主従に世話になった事へのお礼と挨拶をしたのかしなかったのか分からなくなりつつも、更なる獲物…ゲフンッ、再びお世話になった方々への挨拶回りを開始した。
「さて、次はあの人達に挨拶しておかないと……はぁ〜。なんだろう、疲れ.com(どっと込む)」
つまらない冗談も吐きたくはなるだろう。
これから向かう場所を発信源として、先程から会場内の他の場所から響く鈍い打撃音。
そして、それに伴う獣の咆哮を思わせる雄叫び。
それらが合わさった時、誰しもこう思うのだろう「巻き込まれたくねぇ」と。
「あ、ちゃん。どうしたの?」
「お館様ぁあーっ」
「今回お世話になった方々に、ちょっと挨拶をしに来たんですが……」
「幸村ぁあーっ」
忍なのに全然忍んでいない迷彩柄の忍に見つかってしまった。
なんだろう、今程全速力で後ろに向かって前進したいと思ったことは無い。
「無理だねぇ」
「お館さぶぁぁああーーっ!」
「あぁ〜、はい。到底挨拶する事なんて無理ですね」
「幸村ぁぁああーーっ!」
騒がしい声と音が会話の後ろに来る為、忍にはわけない事なのだろうが、にとっては話の内容が聞き取りづらい。
会話が不可能と思ったはそれっきり黙り込んでしまった。
「……」
「ぅおやがだずぁぶぁぁぁあああーーーっ!!」
「……」
「ゆっきむぅるぁぁぁあああーーーっ!!」
打撃音とは違う、ナニかがキれるオトがした。
「るっさぁぁああいっ!!」
忍も反応できない素早さでどこからか取り出した突っ込み専用最終決戦兵器(「浪速必携」とも言う)を二つ取り出したは、それを未だ殴り合いを続ける武田主従に向かい投げつける。
当たり所が悪かったのか、それとも使用した物が悪かったのか、二人は凄まじい音を立てながらその場に倒れ込んで目を回していた。
どういう原理でそうなっているのかは分からないが、攻撃を受けた部分からなぜか煙が立ち昇っている。
「殴り愛も程々に!」
「ちゃんっ?!音声じゃ分からないと思うけど、それ漢字違うからねっ!合いなんだからね!!」
「どっちでもいいですよ、この際」
オカンな忍は、やっぱり思った通りの突っ込み属性でした。
「……魔王の旦那にソレ、返してなかったんだね、ちゃん。でもなんで二つも持ってんの?」
使用した突っ込み専用最終決戦兵器を回収してきたに疑問に思ったのか、猿飛が尋ねる。
その質問を受け、何かを思い出すかのようにはどこか遠くに視線を彷徨わせた。
その思いは遥か遠い。
「二人同時に突っ込む時に必要になりまして、信長公に貸していただきました。まぁ、主に使用相手は蒼紅のお二人ですが……」
「イタッ!なんか俺様心が痛いよ、ちゃん!!」
の棘のある言葉に傷ついたのか、猿飛は片手を胸に、もう片方の手を額に当てながらふらついた。
その様子は戦でもないのに頭の周りに星が舞っているような幻覚まで見えそうだ。
「ねぇ、オカン。子供の躾は後の為に色々と大事だと思うのよね。そうは思わない?」
「あれ、俺様またオカン呼びっ?!」
「そうは、お・も・わ・な・い?」
「ハイ!思いますっ!!」
そう反射的に返事する猿飛。
一文字ずつ句切ってそう尋ねるの笑顔が、忍生活の中でも特に怖かった部類に入ると、そう後に語ることになろうとは、この時の猿飛は夢にも思うはずもなかった。
**************************************
の不意打ちよりようやく復活した武田は床几に腰掛け、その側には真田が控えて膝を着いていた。
それと相対するかのように、真正面に座する。
真剣な眼差しで見つめ合う武田と。
言葉も無く互いに何かを思い、視線を交わらせているその二人の間には、わずかばかりの火花が散っているようにも見える。
あくまでも他人からはそう見えるだけで、実際は違うのだが。
というのも、が真剣な眼差しで見つめているのは武田の目というよりもその外側、武田が身につけているあのごつい角の生えた立派な兜。
真剣な顔をして何を考えているのかと思えば「あのモフモフに顔を埋めてみたい」という、実にロクでもない事であった。
あぁ、羽と尻尾の生えたどこかの悪魔が「欲しがればよいのだ、どうせ人はすぐに死ぬ」と、耳元でそう囁く。
かなり具体的で、思いっきり心当たりのありすぎる悪魔の姿が見え隠れするのは気のせいにしておきたい。
その言葉に誘われるかのように「そうだよね、きっと許されるよね。だって信玄公だもん。お館様だもん」と自分に言い聞かせると、の指がわきわきと動き始める。
「ダメだからね、ちゃん」
「ヒィイッ!心読まれたっ?!」
の考えている事を読んだのか、猿飛が座っているの肩をポンッと叩いて突っ込みを入れる。
猿飛が何について駄目だと言ったのか分からなかった武田は、その小首を傾げていた。
仕草が可愛いですぞ、お館様!
「なんでダメなんですか?佐助さん」
「ほら、後々面倒過ぎる大変な事になるから」
「大変って?」
「旦那が……」
猿飛が苦笑いを浮かべ語尾を濁らせながらそう言い、武田の側に控える真田の方にチラリと向ける。
その仕草でなんとなく察した。
あぁ、そうだね。
きっとどころか、確実に思いっきり面倒な事になるよね。
「……あぁ〜、ね。うん、ゴメン。余計な手間を掛けさせるところだったよ、うん」
猿飛に自分がしでかそうとした事について、は一応の詫びを入れた。
未だ首を傾げて猿飛とのやり取りを見ていた武田であったが、何を思ったのかその首を元に戻し、膝を一つ叩くと話を切り出した。
どこからともなくやってくる嫌な予感がの脳裏を掠める。
「よ。ワシをも倒すその力強い突っ込み、実に見事じゃ」
「褒められているんですよね、一応」
「お館様にお褒めの言葉を頂けるとは……某っ、羨ましいでござるぅぅうう〜〜」
が武田に褒められたのがそんなに羨ましかったのか、武田の隣で転がり始める真田。
武田にちょっと褒められただけでこの様子。
モフモフに顔を埋めるなんて事を実行していたら、きっとそれ以上に暴れ始めるに決まっている。
あぁ、オカンに止められて良かった。
強行手段に出なくて本当に良かった。
胸の奥では、そうしみじみと思う。
「佐助さん。話が進まないのでアレ、なんとかしてください」
蔑んだ視線と共に、未だ武田の側で転がり続ける真田を指差す。
やれやれと一つため息を吐くと猿飛は真田に近付き、黒い羽を舞い上げさせながら一瞬にして真田と共に消えた。
「オカン、仕事早いですなぁ〜。さすが一応超一流の忍」と、が思った瞬間に猿飛は再び現れた。
側に真田の姿は無い。
「あれ?真田様は?」
「あまりにもうるさいから捨ててきちゃった、えへ♪」
「捨ててきたってどこへーっ!!」
「あ・そ・こ♪」
猿飛が笑顔で指差す方に武田とが顔を向けると、そこは奈落を思わせるような底の見えない会場の淵。
ゴクリと二人して唾を飲み込み、喉を鳴らす。
オカンのその笑顔が怖かった。
「ざ〜ず〜げぇぇええ〜〜っ!」
猿飛の笑顔も怖かったが、地の底から上がってくる真田の声も怖かった。
地獄の底から響いてくる声。
会場の淵に掛かる手と何かを引き摺る音。
なかなか上体を起こさずに這い蹲ってよじ登ってくる真田のその姿は、かの有名なジャパニーズホラーを髣髴とさせた。
「貞子ォォォオオッ?!助けてオカーンっ!貞子が来るよぉー、きっと来る、きっと来ちゃうからぁ〜〜っ!!」
恐怖で慄き、涙声になる。
真田の這い上がってくる様子に若干引き気味になる武田と猿飛。
体全てが上に上がり切ると、飛び跳ねるかのように体を起こした真田がその拳を握り締め、猿飛に向かって突進する。
「佐助ぇーっ、主を底に落すとは何事かぁぁああっ!」
「嘘だろぉぉおおっ!!」
突進の勢いと、腰を使って繰り出したものすごい勢いの拳が猿飛の頬に抉り込む。
それはにとって初めて実際に見た、人間が何も道具を使わずに空を飛んで星となった姿であった。
それを見届けた武田が床几から腰を上げる。
「幸村っ、獅子は我が子を千尋の谷へと突き落とすと言う!この意味分かるなっ!!」
「ハッ……お館様っ、それでは佐助は?!」
「お主の事を思うてした行動に違いはなかろう!」
猿飛の行動を武田はなにやら良い方向へと解釈する。
その言葉に感動し、涙を流す真田。
いつの間に、真田は猿飛の子になったのだろうか。
あぁ、愚問か。
ヤツは既に武田のオカンであった。
「お館様ぁあっ!」
そしていつもの殴り合いが始まる。
恐怖に慄いていたであったが、その武田主従の掛け合いが始まると呆れたため息をこぼした。
「幸村ぁあっ!」
「お館さぶぁぁああーーっ!」
「幸村ぁぁああーーっ!」
「ぅおやがだずぁぶぁぁぁあああーーーっ!!」
「ゆっきむぅ「あの、もう帰ってもいいでしょうか?信玄公」……おぉ、すっかり忘れておった」
に話しかけられ、真田との殴り合いを唐突に止め、武田が再び足元にあった床几に座る。
殴り合いを途中で止められた所為で、勢いを止められずにずっこける真田。
なんだろう、微笑ましい光景といえば微笑ましい。
「そこでじゃな、。武田道場にてさらなる突っ込みの冴えを体得してみんか?百人もの猛者を相手に、ひたすら突っ込みを入れる『百人ボケ倒し』や……」
ずっこけている真田をよそに、何事もなかったかのように武田に武田道場での修行内容の説明が始められる。
あったんだ、そんな修行。
いらないよね、そんな修行。
というか、そんな修行して一体どうすんのさ?
「そこに控える佐助も、この武田道場で……」
なにやってんだよ、オカン。
いつの間に戻ってきたんだよ、オカン。
突っ込み修行やったんだ、オカン。
だから武田軍の突っ込み役やってんだ、オカン。
いや、やらされてるのか?
どちらにしろ、苦労が絶えないねオカン。
「殿。武田道場での修行とあらば、某もお共いたす。そして某も共に突っ込みを見事極めてみせましょうぞ」
「ボケ担当のクセに黙らっしゃい!お共に付けるならどちらかと言うと経験もある突っ込み気質のオカンの方だからねっ!!」
「オカンって誰のことなんだろうねぇ〜」
真田に思いっきり殴られた所為で腫れた頬を撫でながら滝のような涙を流しつつ律儀に突っ込みを入れる猿飛。
どうしようもないね、その突っ込み気質。
そこを見込まれちゃったんだろうね、武田に。
だからオカンって言われるのかもね。
「ともかく、武田道場での修行はおこ「「信玄公、是非ともを武田道場にて修行させていただきたい」」……な、なにぃぃいいっ!!」
断ろうとしていたの肩を叩きながらそう言ったのは、舞台の上で晒し者と化しているはずの弟達であった。
「おぉ、三好の。お主等もそう思うか!」
「弟っ、なぜここに?!」
の問いに弟達がどこか遠い視線を向ける。
「石を投げられている時に兄が通り掛かってな」
「泣き付いて助けてもらった」
「チィイッ!松永軍のオカンめ、余計な事をぉぉおお!」
今、この場にはいない兄に向かい悪態を吐く。
そんなの体を羽交い絞めにし、多量の縄を持ち出した弟達の顔は、仮面に隠れて表情は分からないがきっと松永並の凶悪な笑顔を浮かべているのだろう。
「「覚悟しろよ?」」
「ひぃぃいいやぁぁああーーっ!!」
忘れていた過去が現在に甦り、地獄の門が開かれた。
**************************************
宴が開かれている会場、談笑と音楽で賑わう人々。
しかしその影で、その光景を羨ましく眺める二匹の蓑虫がいた。
その蓑虫とは、お仕置き中にたまたま通りがかった兄の手により解放された弟達がその復讐として簀巻きにしたと、先程片倉の手によって再び『愛の説教部屋』という名の拷問部屋へと引き摺られて行ったはずの伊達である。
なんとも情けない姿。
だが、簀巻きにされ蓑虫姿の二人の人物が舞台の上から吊されていたとしても、もはや舞台の上が混沌としたお仕置き場と化しているので誰も突っ込まない。
まぁ、集まった人間の内に突っ込み要員といえる者がほとんどいないという事や、その貴重な突っ込み役二名がお仕置き場で吊るされているからなのだろうが。
「政宗公は自業自得だと思うんですが、なんで私まで吊されているんでしょうね。どちらかというと被害者なのに……ねぇ?政宗公」
「Ha!俺に聞くなよ」
どうでもいいと言わんばかりに伊達は投げやりに答える。
片倉が松永に対抗したのか、伊達のその首には「独眼竜は伊達じゃねえ」と書かれた板が吊り下げられていた。
微妙である。
板に書かれている内容の解釈の仕方が色々とあるので、実になんというか微妙である。
ある意味酷いな、伊達のオカン。
「っつか、大体自業自得ってなんだ!」
「片倉様に吊される心当たりはあるのでしょう?」
「うっ!ま、まぁな〜…♪〜♪〜…」
心当たりがありすぎるらしく、伊達は視線をそらして口笛を吹く。
その様子にはその眉を顰めた。
「政宗公、夜に口笛を吹くと蛇が出てくるらしいですよ」
「Ahn?俺がそんな迷信、信じると思うか?」
「いえ、全然。まったく、これっぽっちも……」
なんとも言い難い会話を反省の色も無く続ける二人の間に背後から忍び寄る影。
「おや、久秀公の……」
「「ゲッ!明智〔様〕」」
バックアタック、明智が現れた!
酔っ払った伊達が登場した時と同じように、RPG特有のモンスター出現即戦闘に突入するあの曲が再びの脳裏に駆け巡る。
ちなみに、逃げることがかなわないのでラスボスとまではいかないが、中ボスくらいが相手でお願いします。
「実に楽しそうなことをしていますねぇ」
「……これが楽しそうに見えるなら、あなたの目は節穴です」
「何か言いましたか?」
「いえ、何も」
身動きが取れないように縛られ、吊り下げれられているに明智がゆらりゆらりと体を揺らせながら近付いていく。
たまたま通りかかったのか、それとも伊達の口笛に引き寄せられたのか、どちらにしろ最悪な状況の時に最悪な人物が現れたものだとは心の奥底から嘆いた。
とりあえず、口笛が原因だったらあとでまた伊達のオカンである片倉に説教の依頼をしようと心に誓う。
「ところで明智様、なぜここへ?」
「なにやら心惹かれる音色がこちらの方から聞こえましたので……」
明智の話を聞くと同時に、年末にある放送局で流れるバラエティ番組のように「伊達、アウトぉーっ!」と、は心の中で叫ぶ。
ものすごい勢いと形相で伊達を睨みつけるが、その気配を察したのか伊達は同じように勢いよく顔を背けた。
内心思いっきり舌打ちをしながら「説教決定ついでに、ケツバットも追加依頼でいいでしょうか?伊達のオカン」と、は伊達への恨みを募らせる。
「明智様、楽しんでおられるところ大変申し訳ございませんが、助けてはいただけませんでしょうか?」
この状況を打開すべく、駄目で元々と思いながらは明智に助けを頼んでみることにした。
口を挟むことはなかったが、伊達がその選択は間違いだと言いたげな顔をしている。
「かまいませんよ」
返ってきた意外な返答にと伊達は目を見開き、顎が外れんばかりに口を開ける。
「えっ?!……いいんですか?」
「おや、いらないんですか?」
「いえ、いります。欲しいです。助けて下さい。お願いします、明智様」
「ただし、条件がありますよ」
松永とはまた違った嫌な笑みを明智が浮かべると、その笑みに釣られるかのようにも引きつった笑みをその顔に浮かべる。
嫌な予感しかさせない笑みを浮かべたまま明智は顔をにズイッと寄せると、その瞬間、は小さな悲鳴と共にちょっとだけ体が引いてしまった。
のその様子に明智は更に笑みを深めていく。
「はいっ……なん、でしょうか?」
「私も出てみたいですネェ、舞台に。信長公の「血は見れませんよ、お芝居ですから」……おや、それは残念。信長公の血が見れるかと思ったのですがねぇ〜……クフッ……アハ、アーハハハハハハハッ!」
どこでスイッチが入ってしまったのだろう。
やはりあの選択は間違いでした。
ゴメンナサイ、伊達男。
明智のあの恐怖を煽りまくる笑い声を聞きながらは心底猛反省した。
このような恐怖しか待っていないのなら、二度とこの人だけには助けを求めまいと。
「とても、とても、とても……残念で仕方ありませんよ!フハハハハハハハッ!!」
どこから取り出したのか分からない鎌をのけぞりながら振りまわし、けたたましく笑う明智が本当に残念に思っているのかどうかは今はよそに置いておこう。
それよりも突発的に窮地に立たされた今、この状況をなんとかしたい。
二匹の蓑虫が凶刃によって殺されまいと、今、必死に避ける!
「明智様、戻ってきてください!怖いっ、怖いです!!ってか、死んじゃううぅぅ〜〜っ!!」
「俺まで巻き込むんじゃねぇぇええっ!!」
と伊達は逃げ出した。
しかし、縛られている上に吊り下げられているので逃げられない。
人生がもしRPGだというのなら、今、逃げられないというのに「逃げる」のコマンドをつい連打したくなる気持ちが痛いほどよく分かる。
戦闘時の作戦は、命令をさせてくれないならせめて「いのちをだいじに!」にさせて下さい。
「アハハハハハハハッ、フハハハハハハハッ!」
「「いぃ〜やぁぁああーーっ!!」」
命の灯火が消えるまで、あと何秒?
**************************************
今宵の月のように弧を描いた禍々しき黒き刃。
夜空に向かい掲げられたその刄によって今、儚くも命の花を刈り取られようとしたその瞬間、颯爽と舞台を駆ける存在がいた。
「イィヤッホゥ!」
「なっ、工場長っ?!十飛ですか!」
未だにどこに引っ掛けているのかが分からない碇を掴み、明智に向かって長曾我部が突進蹴りを繰り出す。
颯爽と駆けるように現れた長曾我部のその勇ましい姿に、野郎共のアニキコールがどこからともなく聞こえてきそうだ。
いや、もう長曾我部軍でなくともアニキコールを高らかに上げたい。
「ッセイ!!」
「しかも追撃入りっ?!」
明智を十飛による蹴りで浮かせた後、引っ掛けていた碇を外して追撃の一撃を大きく振りかぶって入れた。
「あぁ…イイ…」
が驚いている間に追撃を食らった明智は長曾我部が王将の奇跡でも装備していたのか、ホームラン性の当たりでかなりの飛距離を出して飛んでいく。
恍惚の笑みを浮かべながら、先程真田が落とされた会場の淵へと明智は消えていった。
「♪〜、やるねぇ〜」
その鮮やかな連撃にそれが原因で明智を呼び寄せたというのに伊達が口笛を吹いて感心している。
そんな事をしていると、今落ちて行ったヤツが再びこの場に舞い戻ってきそうな感じだ。
ほの暗い淵の底から微妙な効果音とともに這いずり上がってきたあの真田のように。
明智がやるとそれこそ洒落にならず、その光景はまさしく恐怖心を煽りまくることだろう。
今度こそ取り返しのつかない事態に発展しそうな気がするので、はこれを期に某伊達のオカンに某伊達男を躾け直してもらおうと顔に陰を落とし、松永張りの凶悪な笑顔を浮かべながら固く心に誓うのであった。
もちろんそれなりの躾方法で、の話である。
「おい、大丈夫か?」
明智を会場の淵にある底へと見送った長曾我部がその大振りな碇を肩に担ぎ上げ、背後に向かって振り返ると苦笑いを浮かべながらに心配そうな声を掛ける。
たがすぐに心配しなくても大丈夫か、と長曾我部は嘆息混じりに思い直した。
そこにいたのは踊り跳ねる一匹の蓑虫。
爽やかな風を纏いながら近付いてくる長曾我部の勇姿に大興奮したのか、が蓑虫の姿のままで喜びに跳ね回っていた。
滑稽と言えば滑稽な姿だが、周りにそんな事を気にするような輩は生憎と存在しない。
「ア、アニキィィイイーーッ!!」
「おぉっ?!なんだァ?。ココじゃ俺のこたァ工場長じゃなかったのかよ」
に近付くにつれ、長曾我部が引きつったような笑みを浮かべながら眉間に皺を寄せていく。
興奮と感激によりの顔が色々と大変なことになっていた。
そう、もし放送コードとやらがその場に存在するというのなら間違いなくモザイクを掛けられているか、もしくは「しばらくお待ちください」という画面に切り替わるであろう。
「おめェ、ホントに大丈夫なのか?」
そう声を掛けながら蓑虫踊りに疲れてグッタリとしているの縄を解き、その足を地に着けさせてやると長曾我部はどこからか可憐な花柄の刺繍が施された手ぬぐいを取り出して放送できないであろう顔へと変貌したの顔を拭いてやる。
オカン属性が垣間見えると思われるが、ここは黙っておこう。
長曾我部はオカンよりも面倒見のいい皆のアニキのままがいい。
ちなみに長曾我部が伊達を下ろしてやらないのは、その姿が明らかに片倉の手によるお仕置きの真っ最中だということが分かるからだ。
竜の右目、怖ろしや。
「工場長ぅ〜、あんたエエお人やぁ。どっかの役立たずな独眼竜と違って、アンタほんまエエお人やぁ〜」
「Ha!役立たずって言うな。こっちは縛られた上に吊るされてんだぜ?お前だってそうじゃねぇか」
「颯爽と舞台を駆ける姿、そこに痺れる、憧れるゥ!!」
「そんなに褒めんなよ。照れちまうぜ」
「テメェ等無視かよ……」
二人に完全なる無視をされ、その眦から涙が一粒零れ落ちるが頭を振ってそれを散らす。
普段さりげなくカッコ付けている人物がちょっと無視されたぐらいで涙が出たのはここだけの秘密だゾ。
「工場長ぉー、カッコイイー!一生付いていきますぜー!」
「うん〜…?…」
先程から掛けられるの賛辞に違和感を覚えた長曾我部は、未だに吊り下げられた状態でいる伊達に声をかける。
「……独眼竜よォ。さっきから聞こえてくるのァ、どう聞いてもごますり棒効果だよなァ?」
「あぁ、間違いねェ」
「俺ァごますり棒なんざ今装備してねェんだがなァ。っかしーな、なんでだァ?」
長曾我部が自身の身の回りを探り、ごますり棒を探してみるがそれらしき物が見当たらない。
何かを見つけたのか伊達がごますり棒を探している長曾我部に声を掛ける。
「お前、それ……」
「あぁん?」
「腰に挿してんの、ごますり棒の棒じゃねぇのか?」
「……あ、あぁ〜、あん時のかァー。そういやァ、そうだったなぁ〜」
「なんだってんなトコに……」
「いやぁ〜、さっきよォ俺が使ってた杯がどっかいっちまったんで代わりに鉢の方を使ったわけよ。んで、邪魔だったからここに挿してたのすっかり忘れちまってたぜ」
「んなモン替わりにすんなよ!」
伊達に突っ込まれた長曾我部が腰に挿していた棒をその場で軽く投げ捨てると床に当たって軽い音を辺りに響かせた。
ごますり棒の棒を装備から外した為か、効果から逃れられたに苦笑いを浮かべながら声を掛ける。
「わりィな、あんなモン装備しちまっててよ」
「大丈夫ですよ。それに、お世辞じゃなくて本心ですから」
本心であったと言うの言葉に顔を少々赤らめた長曾我部が照れたように後頭を掻く。
なんだろう、ここだけ微妙にロマンス?
微妙に甘酸っぱいその雰囲気にやっぱり置いていかれる伊達のその端正な顔が、思いっきり歪んでいるように見えるのは気のせいにしておきたい。
そんな甘い雰囲気をかもし出す二人(+放置された男D)に炎が襲い掛かる
「焼け焦げよ!」
「采配ぃーっ?!」
「アッヂィィイイーーッ!!」
炎を纏った采配が見事に長曾我部だけを巻き込み一瞬にして燃え上がらせた。
自分も炎属性だというのに他人の炎は熱いのか逃れるように走り回る。
丁度その時一体なんの神様の悪戯か、足元に落ちていたごますり棒の棒を踏みつけ前のめりにズッコケた。
あぁ、顔面からイっちゃったよ。
ズルッと思いっきりイっちゃったよ。
しかも明智みたいに尻を突き出して倒れちゃってるよ。
その光景を呆然と見る二人の視界に入ってきたのは、元祖ツンデレオクラ様の毛利である。
「ちょっとに褒められたからといって調子に乗るでないわ!!この超チ「わぁぁああっ!駄目ですよ元就公!ここで工場長の微妙に有名なアダ名を出すのはっ!!」……フンッ!」
纏っていた炎を振り払って散らすとそのまま采配を肩に掛け、毛利は体から焦げ臭い煙を上げながら倒れている長曾我部のその尻をここぞとばかりに思いっきり踏み付けた。
その姿を見たは手に持つ采配が鞭に見えたり、つい「あなた、どこの女王様ですか?」と尋ねてやりたくなる衝動に駆られた。
だが、いくら突っ込み所満載の状態であろうとも、その衝動は一生胸に秘めたままでおこうとは心に誓う。
えぇ、一生。
だってほら、死にたくないからさ。
殺されないまでも采配でシバかれそうだしさ。
「元就公……相当酔ってますね」
「酔ってて悪いか?」
「いえ、元就公に文句などあろうはずもございません」
言葉遣いが少々おかしくなってきている毛利。
相当酔っ払っていらっしゃるご様子で。
さわらぬ神に何とやら、そう思ったはそれ以上の追求をやめる。
酔っ払った伊達の所為でいらぬスキルアップをしたようだ。
踏み付けられたまま長曾我部が顔をわずかに横に向け、毛利の様子を窺うと口元を引きつらせながらその顔を歪めた。
「おめェ飲んじまったのかよ、あんま飲めねェってのによォ」
「うるさいっ!そもそも貴様がっ……ウプッ!!」
大声を出して毛利が反論しようとしたその時、踏みつけていた長曾我部の尻から足を退けると会場の淵にあわてて駆け寄った。
なんだろう、すごく嫌な光景を目撃している。
先程のと同じように放送コードに引っかかる姿を毛利はその場に曝していた。
先程燃やされたというのにもう復活したのか、立ち上がった長曾我部が遠くから一応心配そうな声を掛ける。
「おぉ〜い、毛利ぃ〜、大丈夫かぁ?」
「あれ?そこってさっき明智様が落ちて行った……」
がそう言った瞬間、西海の鬼と独眼竜の東西兄貴同盟が思いっきりの方を振り向き、その顔を青ざめさせた。
その二人の様子に事の重大さを思い知ったの顔色が同じようにみるみる蒼白なものへと変わっていく。
毛利以外の三人はお互いの顔を見合わせ頷き合い、その全てを暗黙の了解とした。
なかったことにしよう、明智の存在など。
そう、奴は始めからこの会場にはいなかったのだと。
それから長曾我部は会場の淵でグッタリとしている毛利に徐に近付き、一応その背を擦ってやる。
「うぅ〜ん……」
「おら、酔っ払いがあんま無理すんじゃねェよ」
「……うるさい、耳元で喋るでないわ」
いつも酷い目に遭わせられているというのに、面倒見がいいのか毛利の介抱をしている。
やっぱり長曾我部もオカン属性のような気もするが、ここでも無視をしておこう。
土下座でもなんでもしますので、皆のアニキのままでお願いします。
ヤレヤレと言いたげなため息を一つ吐くと、長曾我部は毛利を肩に担ぎ上げてどこかに運んでいく。
はというと、そんな長曾我部の背を追うようにその場から立ち去って行った。
「あれ?俺、置いてけぼり?」
一人残されてそう呟いた伊達男には、冷たい風が身に沁みた。
**************************************
まばゆい光を大いに受け、役者達が光り輝く場所。
笑いあり、涙ありの物語が繰り広げられるはずの舞台は今、端から端まで縄を張られ、さらにその向こう側を長曾我部によって施されたド派手な刺繍入りの緞帳が下ろされていているという、来る者全てを拒絶する場所と化していた。
なにもド派手な緞帳が下ろされているでそう評しているわけではない、問題はその前にある。
舞台の端から端を渡らせたその縄に『KEEP OUT』、『立入禁止』と書かれた小さな板が交互に吊り下げられ、さながら何かを封印している注連縄のように見えた。
さらにその縄と緞帳の間には立て看板が立てられており、そこには『使用中(闇会議中だから入っちゃイヤン♪)』と書かれ、見る者に吐き気を催させるのだからそう評されても仕方ないだろう。
何かを封印しているかのような注連縄と吐き気を催させる恐怖の立て看板、一体いくらかかったんだと言いたくなる程の工場長作ド派手な緞帳の三重奏によって遮られた向こう側。
まさにこの世全ての絶望が渦巻く混沌と称するに相応しい空間が広がっていた、かのように思えたのだが……。
「はい。一同、こちら側にちゅうもーくっ!!」
なぜか仮面の上から伊達眼鏡を掛け、詰襟の学生服に身を包んだ兄が教壇の上で手を数度打ち鳴らしている。
規則正しく並べられた机と椅子、その並べられた席には各軍ごとに所属武将達が纏まって座っていた。
しかも兄と同じく学生服やセーラー服に身を包んで伊達眼鏡着用済みで。
体格の良い武将共が狭苦しそうに椅子に座っている姿はちょっと笑いを誘うが、異常とも言える現状がそこにはあった。
ある意味混沌といえば混沌の世界、いつからここは学校の教室と化してしまったのだろうか。
「ったく、かったりぃ〜よなぁ〜」
「だな、フケっか?」
「はいソコ、私語をしない!」
教壇の上から兄が最後尾に座っている「どこぞの族にでも所属しているんですか?アナタ」と言わんばかりの改造学ランを着た伊達と、裏地に派手な刺繍を施している長曾我部に私語を注意する。
兄、勇気あるな。
「委員長ぉ〜、赤いのが隠れて御菓子を食べてるー!ずるいぞ、赤いのっ!!」
「なんだと?!」
「モガぁっ!」
兄を委員長と呼び、森が挙手しながら武田の後ろに座っていた真田の所業を指差して告げ口する。
その森に真田は御菓子を抱えながら人差し指を口元に当て「シーッ、シーッ」と言いながら言わないで欲しいと懇願する視線を向けていた。
兄、委員長だったのか。
「はぁ〜……信玄公、鉄拳制裁をお願いします」
「うむ!幸村ぁーっ!!」
「……頼むから静かにしてくれ。これでは話が進まん」
振り返り様に武田が拳を繰り出すと、御菓子を抱えた真田は避けようもなく吹っ飛んでいく。
重いため息と共に武田に真田の処分を任せた兄は、心の奥底で「なんで委員長なんて引き受けちゃったんだろ……」と嘆いていた。
「ところで、毛利はどうした?」
「ツブれてたから俺様がちゃんと保健室で寝かしておいたよ」
「やっぱ担いで運んだのァ、マズかったか」
保健室まであるのか、ここには。
後ろの方にいた長曾我部と猿飛が話をしている姿を目撃するが、ありとあらゆる事に嫌気がさした兄はすでに注意をする気も起こらない。
ガンバレ、兄!
「……先程から三好が言っているように、そろそろ黙ってはもらえないか。それとも卿等のその耳は飾りかね?あぁ、飾りだから黙らないのか。これは失礼、それならば仕方ないな。話を聞くことも出来ない飾りものなど、今すぐそぎ落としてしまおう」
怒気を孕んだ物騒な科白が聞こえ、一同がその声と言葉に震え上がり押し黙る。
離れたところにある教員用の机の上に肘を付き、組んだ手を口元に当てた松永の姿が一筋の光に照らされて浮かび上がった。
こめかみには青筋が立っているが、それは見なかったことにしよう。
うん、そうしよう。
しかし一体どこからスポットライト?!
「参の星よぉ、我が紋よぉ〜……」
そうでした、光といえばこの人でした。
保健室に運ばれていたはずの毛利が効果担当としての責務を果たしているのか、松永に向かって小規模のBASARA技を繰り出していた。
しかも這いつくばったまま。
家に着くまでが遠足ですとでも言わんばかりの根性に、誰しも称賛の意を示す。
あ、力尽きた。
「所詮は我も…駒の一つ…フフ、フ…」
「毛利の旦那、アンタそんな人柄じゃないでしょっ!無理しないでぇえーっ!!」
「うむ、見事な最期であった」
「大将まだ死んでない、死にかけなだけだから!お願いだから殺さないであげてっ!!」
武田道場突っ込み修行編の成果が出ているのか、猿飛が力尽きた毛利を介抱しながら武田に突っ込みを入れている。
さて、この混沌とした状況に唯一まともな突っ込みを入れられるであろうはというと、闇会議には呼ばれていないので緞帳の向こう側にいた。
本願寺はしばらく使えないと早々に判断し、次の企画の資金提供先として今川に狙いを定めたは、今後の布石の為にもと先程からヨイショをしている。
舞台より離れた場所でお立ち台を用意した今川と共に、数多の光を反射させながら回るミラーボールの下で扇子を片手に踊り狂っていた。
最悪の場合はザビーという手もあると、踊りながらも陰で嗤うがいる。
その行動力は病気のくせに動きまくるどこかの仮面の軍師以上とも言えるだろう。
、やっぱり恐ろしい子!!
話は戻り緞帳の向こう側、再び舞台上へと移った。
力尽き、瀕死の毛利など始めから存在しなかったかのように松永は話を続ける。
「さて静かになったところで、諸君、事は急を要する。今回のこの事態について、卿等はどう思うかね?」
「なんだ、松永。前振りも脈絡も主語もなく。質問の意図を示せ意図を」
「竜の右目よ、熱量が減るが仕方ない。実に面倒な事だが、説明しよう」
質問の意図が見えない松永の前振りに間髪入れずに片倉の突っ込みが入るが、そんな片倉に松永はやれやれとため息を吐きながら面倒だと言いたげな視線を向ける。
「三好」
「はい」
「「って、テメェがしねぇのかよ!!」」
さすが東西兄貴同盟と言おうか、独眼竜と西海の鬼の絶妙に息の合った突っ込みが松永に入る。
兄がチョークを持って黒板に本日の議題を書き始めると、松永が座っていた教員用の席から立ち上がり今まで兄が立っていた教壇に立った。
やはり松永が教師役なのか、他の者とは違ってスーツを着こなしている。
こちらもちゃんと眼鏡着用で。
「私がするとは一言も言ってはいないがね」
「あぁ、そう言えば確かにそうですねぇ」
松永の返答に、一人だけ白衣を着用した明智が同意した。
その声を聞いた瞬間、東西兄貴同盟が冷や汗を垂らしながら松永から顔を背ける。
席順で言うと前方に座する明智の方を決して見ようとしない理由を知る者は、今この場にはいなかった。
あの後、明智の身に何が起こったのかは知る者はいない。
再び宴会場に登場した時、衣装が変わっていたことなどきっと誰も気にしないだろう。
いや、もう気にするな!!
「……と、言うわけなのだが」
「原因に心当たりがある者は今の内に挙手したまえ」
話は流れに流れて兄による黒板を使った説明が終わり、松永が意見を求める。
大変珍しい光景なのだが、そうも言ってはいられない。
今回の闇会議の議題、それは『あれ?!うちの子あんなに黒かったっけ?一体どうしてしまったの?ちゃん。副題:俺はそんな子に育てた覚えはありません!!BY三好兄』だった。
確かに、さすが松永軍に所属するとあって元より突飛な言動を多少なりともする傾向にはあったのだが、の性格が黒くなってきたのは舞台稽古が始まってからのこと。
皆が一斉に舞台が始まってからのことを振り返る。
「ちなみに、原因に人が関係していた場合それなりの罰を与えようと思うのだが、どうかね?」
いきなり何をおっしゃる松永さん。
そんな事を言うと悪ノリする輩が……。
「おもしろそうじゃねぇか!その話、ノった!!」
現れちゃったよ、やっぱり。
どんな罰を与えられるのか現時点では分かっていないというのに、後先考えずに前田が手を上げて参加表明をした。
なんという無謀。
丁度近くにいた長曾我部が前田の首の根を腕に抱え込むと、伊達と共にコソコソと話しだす。
「いいのか?風来坊さんよォ。アイツのこった、ロクなことじゃねェ」
「そん時はそん時で楽しもうぜ?それが粋ってもんだ。なぁ、アンタもそう思わねぇか?竜の兄さん」
「Ah〜、松永が関わってる時点で嫌な予感はするが、なぁ……」
「……ま、俺ァ今回のこたァ全然心当たりがねェから問題ねェが、先に罰を決めといた方がいいんじゃねェか?」
「それもそっか」
どうやら内輪での話は終了したらしい。
もし自分が原因だったら最近加虐趣味全開となってきた松永の事、どんな罰を与えられるのか分かったものではない。
そこで彼等は保身の為に先手を打つ事にしたのだった。
前田を解放した長曾我部が代表として手を上げた。
「よォ、センセー。ちっとばかし提案があるんだが?」
「なんだね?」
「誰が原因か分かっちまってキメんじゃなくてよォ、今の内に罰の内容キメちまわねェか?」
「それもよかろう。さて、何にするかね?」
松永があっさりと許可を下す。
あまりのあっけなさに唖然とする三人組。
しかし彼等は知らなかった。
人間、該当するのが自分でなかった場合を想定し、面白半分で過酷な罰を出してくる輩もいるという事を。
「はい、先生!某、妙案を思きましたぞ!!」
「真田か、なんだね?」
「我が武田道場にて十日間程修行などいかがでござろう?心身ともに鍛えられ「却下。面白みに欠ける」うぅっ……」
「面白みって……あぁ〜、もう。旦那、元気出しなって。なかなか厳しい罰の内容だったからさ」
出した意見を松永に面白くないと即却下を食らい、シュンとなった真田を慰める猿飛。
オカンは大変だね、色々と。
他の者も一応手を上げて考えた罰の内容を挙げるが、松永によって「面白くない」だの「生易しい」だのという理由で即却下をされていく。
そこに真打登場とばかりに委員長という役柄の兄が手を上げる。
「はい、先生」
「次は三好か、なんだね?」
「今回の宴会の費用、全額負担などいかがでしょうか?一国の主が多々参加する宴ですからね、使用した食材や用意した酒等はどれも一級品です」
なにやら含みのある間をとり、兄が少々ずれ落ちていた眼鏡を元の位置に戻しながら口元を吊り上げて薄く嗤う。
く、黒い。
なんか黒いよ、兄!
「複数犯であった場合は折半となりますのであまり痛手とはなりませんが、単独犯となると相当な金額となります。ざっとの見積もりでよろしければ、どの軍であろうとも当分の間オカズは梅干だけとなるでしょう」
「ふむ、さすがは委員長。なかなかの案だ」
支払いが終わるまでという終わりが見えない梅干地獄。
自軍の武将達が飲み食いした代金の支払いの為に、なんで自分達がこんな目に遭うのだろうと兵達は心身共に疲弊するだろう。
松永が顎に手を当て、兄によるある意味過酷な罰の内容の説明に納得の頷きをした。
そこでもう一押しと言わんばかりに兄が話を続ける。
「さらに、複数犯であった場合の事を想定し、が申しておりました次の企画『冥土喫茶』なる場所での給仕を付け加えては?男が原因であった場合は、屈辱の上乗せとして女装をさせるというのはいかがでございましょう?」
それを聞いた唯一人の人物をのぞく誰もが思う「兄、アンタそれキッツいわぁ。つか、鬼?!アンタ鬼じゃねぇ?」と。
この場にもしがいたならば、すかさずこう突っ込みを入れていただろう「兄、冥土と違うからね、メイドだから。漢字にしないでソコ、お願いだから」と。
いや、ある意味では確かに『冥土喫茶』になるであろうが。
想像するに耐えない姿を妄想する一同。
口元に手を当てて嘔吐いている姿を多々目撃する。
一体どんな想像をしたのやら、一部には体力ゲージが赤へと変わっている者までいた。
まさに来る者を冥土へと送る喫茶店、想像だけでこの威力とは。
「俺が衣裳作ってやるよ」
工場長が、キタァァアアーーッ!!
さすが元姫若子、女装に対しても引かなかった唯一人の人物。
今回の舞台衣装といい緞帳のド派手な刺繍といい、工場長クオリティーが織り成す次の作品は一体いかなるものが出来上がるのか。
「これ以上の罰も出ないであろう。では、三好の意見を採用とするか」
松永の一声で兄の意見が通ってしまった。
恐ろしきは学園祭のようなノリ。
まったくもって恐ろしい。
そんな恐ろしい罰が決定した闇会議の存在などまったく知らないはというと今川と共に未だに踊っていた。
しかし……。
「あっぱれあっぱれ、あっぱれあっぱれ」
「ほほぉ〜う。やりますね、義元公」
「、まろの踊りに付いてこれるかの?」
「フッ…あなたを超えてみせましょう!」
共に楽しく踊っていたというのに、いつの間にやら戦いと書いてバトルと読む事態に発展していたが、の話である。
さて、話を戻すが情けなくも集まりに集まった大人達の話が最終局面へと移る。
「話をまとめますと……原因は信長公、あなただったんですねぇ」
「フッ、フフフッ、フハハハハハッ!是非もなぁぁああーーしっ!!」
「上総介様。ここでその台詞はいかがなものかと、濃めは思います」
そう、原因は信長公であったのだ!!
黒板の名前のところにも大きく幾重にも重ねられた丸で囲まれている。
しかも赤色のチョークで。
舞台稽古中に闇属性である織田の武器『浪速必携』を所持し、なおかつそれで突っ込みという名の攻撃を幾たびもは繰り返していたのだ。
闇に呑まれたとしても、なんらおかしくはない。
「でも光秀、原因は上総介様だけではないはずよ」
織田の事を思ってか、それとも終わりの見えない梅干地獄になるのが嫌だったのか、その真意がどちらにしろ濃姫が織田だけに罪を被せまいと助けに入る。
ここは涙ぐましい夫婦愛という事にしておこう。
「……つまり、今回信長公の浪速必携でにツッコミを入れられた総ての者が原因と言いたいのですね?帰蝶」
「そうよ」
明智の言葉に全員が舞台が始まってからの事を思い返す。
「織田、アウトぉーっ!!」(休日早朝超英雄時間番外編・その1参照)
「伊達、アウトぉーっ!!」(休日早朝超英雄時間番外編・その2参照)
「片倉、アウトぉーっ!!」(休日早朝超英雄時間番外編・その4参照)
「武田及び真田、アウトぉーっ!!」(Have a party♪(闇会議前)参照)
どこからか例の恐怖を煽る効果音と共に場内アナウンスが聞こえてくると、名前を挙げられた者達が一斉に顔を青ざめる。
どちらにしろやはり織田は逃れられなかったというわけだ。
「ま、実際黒くなってることだし?闇属性武将の武器を使ったんだし、仕方ないんじゃない?」
同じく闇属性の武器を振るう猿飛が肩をすくめて織田を筆頭に今回罰を受けるであろう関係者に対してトドメの一言を入れた。
仕える主達の命に直接関わる事ではないので、なにやらあっさりとしている。
「さて、今から裁判を行うとしよう」
「ある種、吊るし上げとも言うな」
「「吊るし上げ、吊るし上げ♪」」
教師という役柄であったはずの松永がいつの間にやら黒い法服を身にまとい、裁判長と化していた。
弟達も松永に倣い、裁判官の格好をしている。
「判決、死刑」
「いきなりでござるかっ?!」
「いやいやいや、そこは有罪か無罪かが先に来る所でしょ!」
松永の判決に真田が驚き、猿飛が突っ込みを入れる。
「いきなり死刑宣告ってどうなのよ?!三好の旦那も「よくも俺のを……」やめてぇえーっ!」
兄に同意を求めようとした猿飛が兄の物騒な声音に一瞬引きそうになったがそこは真田忍隊の隊長、オカンの必須アイテム出刃包丁を装備し、今にもその凶刃を仕えるべき己の主達+αに振り下ろさんとしている兄を忍の技を駆使して羽交締めにした。
「うちの子があんな黒い子になったのはお前等の所為かぁぁああーーっ!!」
猿飛に羽交締めにされたまま、ものすごい形相の兄が出刃包丁を振り回す。
ナマハゲだ。
ここにオカン属性のナマハゲがいるぞ。
「なんで同罪の魔王の旦那は外すのさぁぁああっ!!」
「それは松永様の上司だからぁぁああっ!!」
「アンタ今意外と冷静なんじゃない?!大体なんで殺そうとしてんのさっ!!」
「松永様が死刑だとおっしゃられたからだ!」
「ちょっ、誰かこの人止めてぇぇええーーっ!!」
そんな二人を少し離れた所から法服を脱ぎ捨てて面白そうに傍観している弟達。
決して兄を止めようとしないのは、更なる混沌を求めてのことだろう。
「兄、見境なしになってるな」
「の事になるとたまにああなるよな」
「今の兄なら確実に極殺状態の片倉に勝てるな」
「武器は出刃包丁と防具は割烹着で、か」
「「今度やってみるか」」
酷い言い草だ。
殺傷能力はあるかもしれないが、防御はまったく駄目じゃないか。
せめて鍋のフタぐらいは装備させてやってくれよ。
一方、同じく先程まで着ていた法服を脱いだ松永が、罰の内容に顔を青ざめていた伊達主従に眼鏡の位置を直しながら近づき、人を見下した視線と共にあの笑みを浮かべる。
「卿等はその顔を羞恥の色に染めるといい」
伊達主従に対し松永からなんとなく卑猥に聞こえる鬼畜な発言がされましたが、ここはスルーの方向でお願いします。
「ぁんだと?テメェ、松永ぁぁああっ!!」
どうやって背中に仕込んでいたのか分からない金属バットを片倉が襟首からするりと取り出し、椅子を後ろにフッ飛ばしながら勢いよく立ち上がる。
なんで隠し持っていたんだ、そんな物。
「地獄が見てぇか」
「ハハハハッ、愉悦愉悦」
片倉を嘲笑いながら緊急回避で逃げる松永。
それを金属バット版穿月で追う片倉。
そして、未だに絶望感に襲われている伊達がその場に残った。
闇会議がお開きとなったのか並べられた机や椅子が片付けられ、下ろされていた緞帳がゆっくりと上がっていく。
そこで目の前に広がった光景を目撃した武将達はあまりの出来事に色々な所からいろんな物が吹き出した。
目の前にあったのは死屍累々と築き上げられた屍の山。
まともに残っているのは自分達だけ。
一体何があったのだろう。
猿飛がどうにか落ち着かせた兄とそれを面白がって見ていた弟達が近くに座り込んでいたに近付いていく。
手には今川の扇子を持っていた。
「今まで今川と一緒にいたのか?」
「うん、楽しかった」
「何してたんだ?一体」
「一緒に踊ってたんだ。義元公の扇子って意外と重いんだよね」
そう言いながら笑顔を浮かべるには黒い部分など一欠片も見当たらない。
よく見ると倒れている屍と化した者達のところどころには攻撃を受けたような痕跡があった。
「確か今川は光属性」
「その武器をが持っている」
「踊りは今川の攻撃の一つ……」
ポクポクポク、チーン!
「「「でかした今川!!」」」
多少の犠牲は仕方ないと切り捨てるのは死神部隊の特性なのか、遠くでうつ伏せに倒れている今川に対してガッツポーズをしながら賞賛の意を述べる三人衆。
そんな彼等にどこに行っていたのか分からなくなっていた松永がやってくる。
「さて、帰るとするかね」
「久秀様、なんだか焦げてませんか?」
「竜の右目と火遊びをしたものでね」
「あ、あぁ…そ…そうですか」
なにやら触れてはいけないちょっとした出来事が片倉との間にあったようで、言葉を詰まらせながら触れないようには目を泳がせる。
屍と化した者達の処理に追われ何もかもが面倒くさくなったのか、お開きの言葉もなく各自片付けの後に解散となった。
その後、何故か松永から珍しい茶器を一つ贈られた今川は理由が分からないと首を捻ってはいたが、持ち前の性格で「ま、いいか。くれたんだから貰っとけ」程度には思い、裏に何か思惑があるのではないかなどと考えもせずなんとなく受け取ったそうだ。
また、焼失したはずの大仏殿近くに茶店が新しくでき、野郎共の野太くも悲しみの悲鳴と乙女達の黄色い感極まった悲鳴がしばらくの間界隈を賑わせたのはまた別の話である。
完
オマケ1
「なぁ、俺達今回主役だよ」
「あぁ、主役だったはずだ」
「過去形にするのは虚しくなるからやめておかないか?」
「所詮俺達は脇役がお似合いなのさ」
「自虐的だな」
「「「「あぁ、まったくだ」」」」
隅に追いやられて静かに飲んでいる五本槍。
「「「「「はぁ〜……」」」」」
深いため息を吐く彼等を哀れに思った兄が自軍の食事を与えたのは弟達を解放する少し前の話。
オマケ2
これは独眼竜、伊達男の名を冠するある男の解放されるに至るまでの刹那の話である。
「あの……誰か、誰かHelp me〜」
達が去り、未だあいかわらず舞台の上から吊り下げられたままの状態の伊達。
そこに三つの影が沈黙のまま忍び寄る。
「Oh〜♪三好三人衆じゃねぇか」
兄がどこからか持ってきたのか刈込バサミを伊達の目の前で大きく開閉させていた。
なんだろう。
その姿は有名どころのホラーゲームに出てくるハサミ男を思い起こさせる。
親切にも下ろしてやろうというのか、兄は手に持っていたハサミで伊達を上から吊っていた縄を切り離した。
「Thank きゅううぅぅ〜〜?!」
兄が縄を切ると同時に伊達のぶら下がっていた所の真下にあった奈落の口が開かれた。
弟が手に持っていた縄を引き、奈落の口を開けさせたようだ。
ついでとばかりにあまった紙吹雪まで落ち行く彼の上から撒き散らす。
「NoooOOO!!」
時間にするとほんのわずかな時間であろうが、当の本人にしてみればそれはまるで時が止まったかのようにゆっくりで、兄がたてる不気味なハサミの音と弟達の散らす紙吹雪と共に口を開けた奈落の底へと落ち行った。
そんな伊達に三人衆は仮面に隠れて分からなかったが、物凄くイイ笑顔を浮かべながら言い放つ。
「「「邪魔!!」」」
その後、奈落の底に駆けつけた片倉にようやく開放されたのは闇会議は始まる直前の話。