※ネタバレ要注意
陣の奥に進むごとに周りの痛い、痛すぎる視線に晒されながらは、必死に手綱を操る。
の後ろには言わば、この軍のトップ、最高権力者、ボス、が乗っているわけだ。
下手なことをしたら…その後のことなど考えたくもない。
「ほぉ巧いではないか。どれ」
だから、馬の腹を蹴って速度を上げるのやめてくれませんかぁぁぁぁ
「ぅわぁ、ちょ、久秀様、何すんですか!」
心臓が煩く鳴り響くのを感じながらは叫ぶ。
「はっはっは」
対する松永は実に愉快そうに笑い飛ばすだけで、の言うことなど相手にしない。
「つ、つい、たぁ…」
「ご苦労ご苦労」
はぐでっと馬の首にしな垂れ、松永はひょいと馬から降りた。
「松永様、どうやら奥州の右目が…」
松永が降りると伝令が駆け寄り報告する。
「そうか、ふむ。なんだ、生きていたのか竜の右目。卿もしぶとい男だな」
またも、松永が見えない相手に向かって話しかける。
「全くだ…今はこのしぶとさに感謝するぜ」
そして見えない相手から返ってくる。
一見不思議な光景だが、はもう慣れた、慣れてしまった。
「部下も連れずたった一人で何をしに来た?独眼竜の仇を取りに来たのか?」
「戯言を…奪われたものを取り戻し、テメェに借りを返しに来た、それだけだ」
そして戦闘が始まった。
は、そぅっと馬から降りようと様子を見ていた。
「卿は、馬に乗ったままでいたまえ」
その様子を松永が見止め、言った。
「ぇ、でも。降りないととっても嫌な予感がするのですが…」
「クク…駄目だ。乗っていたまえ」
は、猶も降りようとした。
それを見て、松永が指を鳴らすと何処からともなく黒尽くめの忍がわらわらと出てきた。
「ちょ、なっ、どっ、ぇ」
「それを馬から降ろさないように」
「はっ」
は鮮やかとしか言いようのない縄捌きによって馬上に括り付けられてしまった。
「ワンパターンですよ、久秀様!」
は文句を言うも松永に軽くあしらわれてしまう。
「さて、竜の右目の様子でも見るか」
そう言って背を向けられる。
「かの伝説の忍…テメェが雇ったのか」
片倉が風魔を見、松永に問う。
問うとは言っても断定的だ。
松永もそれに応える。
「私の趣味は高みの見物でね…どうだい、笑ってしまうだろう?」
「あはははー悪趣味ですね、久秀様」
ここぞとばかりに嫌味をこめては言う。
「ふふっそうだろう?」
だが、松永は笑って返した。
そして、そこに置いてあった箱に入った六爪をの後ろに括り付ける。
は嫌な汗がたらりと頬を伝うのを感じた。
「久秀様、これは?」
は馬上に括り付けられてはいるが手足は自由だ。
「さぁて…」
雇い入れた風魔の忍達が忍術を発動した。
辺りが暗い闇に包まれ、の乗っている馬が不安げに嘶いた。
「わっ。大丈夫、大丈夫」
は、馬に声をかけ、落ち着かせた。
松永はそれを横目で捉えると、片倉へと語りかけた。
「来てもらったのにすまないが、六(りゅう)の刀はここにはない」
「ぇ、ここにあるじゃ…すみません、なんでもないです」
が思わず口出しそうになったら物凄く松永に睨まれた。
途中で遮られるのが嫌らしい。
「そうか…なら、話は簡単だ。テメェをぶっ倒してから探しに行くまで」
「ハハハ、今更器の小さいことを言わないでくれ」
と、松永が言い終わるくらいに松永は思いっきり馬の尻を剣の平で叩いた。
「ぇ、わ、ちょ、えぇぇぇぇぇやっぱりーーー!?」
馬は脇目を振らずに全力で走り出した。
「ほら、ここにはもう六(りゅう)の爪はないだろう」
は全力疾走する馬の上で松永の呟きが聞こえた気がした。
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