は、今日も今日とて馬上で過ごしていた。
長谷堂から大分移動してきた。
いい加減に馬にも慣れ、あたりの景色を見れる余裕もできた。
風魔がどうなったのか、は知る手立てを知らない。
松永に聞いたところで、金がかかるとかなんだかとか迷惑をかけるであろうことは容易に想像できる。
ましてや戦帰り、今、言うべきことでない。
そう自身を納得させれば、体力回復に専念することができる。
松永の馬に乗らなければ、かなり楽な道のりだ。
辺りを見回せば、普段そうそう見ることのない景色ばかり。
会話がなければ、馬の足音、鎧の音、鳥の囀り、木々のざわめきが耳を楽しませる。
(癒されるー…)
状況が状況であることを頭の中から排除すればそれはそれは素晴らしい森林浴。
は、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、堪能する。
松永が、のその様子を見、密やかに笑う。
笑う気配にが横を見れば、松永の視線とかち合った。
「…何か?」
「いや、何もない。随分と卿もこちらに慣れたなと思ったまでだ」
目を細めて、を見る松永。
「そう、ですかね…」
確かに、最初の頃よりは世間のことも大分理解している。
けれどはまだ世間知らずの籠の中の鳥のようなものだ。
こうして外に出てきてはいても、の世界はまだまだ狭い。
籠ごと移動しているような、そんな錯覚を覚えてしまうほど外を見ていない。
だけど外に触れるのも憚られる。
の知らない世界、何があるのかわからない世界、戦が当然のようにある世界。
今更ながらに、最初、松永に殺されかけた時のような恐怖がの心に波立つ。
は無意識に体をこおばらせた。
馬がそんなに反応して不安げに鳴く。
「?気分でも悪くなったか」
後ろから三好弟が声をかける。
他の二人も口々にを気遣ってくれる。
「無理はするなよ」
「休憩は大歓迎だからな」
「大丈夫、まだまだいけます」
ぐっと拳を作っては言う。
「だ、そうだ。残念だったな三好」
「…休みたくなったら言うんだぞ」
「ん、ありがとう」
なんだかんだとこの人達には支えられているのだ、と思う。
同時に、がこの人達に対して何もできない無力さも感じた。
「…卿は、そこにいるだけでよい」
呟きが聞こえ、は目を瞬き、松永を見る。
「欲しがらないというのなら、そこにいればよいのだ。それもまた、世の真理」
「久秀様…意味がわかりません」
は意味を理解しようとしたが何分抽象的過ぎた。
「ククッ卿に理解など求めていないよ」
松永はの答えに満足そうに笑っていた。
は後ろの三好弟に視線で「わかった?」と聞いたが、「いつものこと」とこれまた視線で返された。
馬上の旅はまだ続く。
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