松永軍はようやく大和まで帰ってきていた。
も長い長い旅からやっと開放されると思っていた。
実際、片倉はもう少し後から来るかもとか思いだしていたから。
だから、松永からそのまま東大寺に陣を布くと聞いたときは盛大にがっかりした。
それと同時に不安に思う。
この戦は片倉が勝利する。
松永は、三好は、死んでしまうはず、だ。
今までは次の戦があるからと思っていたがこれは最終章、ここで終わらなければならない。
もし、もしも松永が、三好が死したら…はこの世界で生きていける自信はない。
だから、といってこの戦は負けます、逃げましょうだなんて言えない。
伊達の刀、六爪は彼の元にあるべきだとも思うし、松永が自分から手放すとも思えないから戦をするのは道理だ。
この世界ならば。
ふ、との乗る馬が止まった。
「ん?」
「、降りなさい」
松永がを呼んだ。
「はい」
三好弟はを降ろすと「じゃあな」と言って行ってしまった。
「ついて来たまえ」
松永は軍の向かう方向とは別の方向へと向かおうとする。
「待ってください。久秀様、どこへ?」
「どこへ行くか、言わなければならないのかね?」
冷たい目、びくりとの体が跳ねる。
「いいから来るんだ」
「はい…」
松永が普通に歩くためは自然と小走りについて行く。
それでもあまり息が上がらない。
こちらに来て大分体力がついたと実感する。
東大寺にほど近く、けれど道二つ分は離れている屋敷の前で松永は止まった。
「ここは…?」
が不思議そうに見上げるのを見とめ、松永は屋敷へと入る。
は入っていいものかと逡巡した。
門をくぐったところでがまだ外にいるのに気づいた松永は振り返る。
「何をしている。さっさと来たまえ」
「ぁ、はい」
中に入ると上等な玄関、廊下を抜け、とある扉の前に辿り着いた。
その扉には錠前がついていていかにも頑丈そうだ。
「久秀様…?」
は不安が大きくなるのを感じた。
「入りなさい」
それでもには拒否権はない。
が素直に中に入るとすぐに扉が閉められ、錠が下ろされた。
「っ久秀様!」
は扉に縋り、呼びかける。
「何を…!」
「…卿には暫くそこにいてもらう」
「な、ん…」
「なに、案ずることはない。戦が終わるまで、ほんの少しの間だ」
(戦、今回は安全なところにいろってことか)
「卿の世話はここの老夫婦に頼んである。何事でも申し付ければよい」
松永はそう言うとの返事は待たず、立ち去った。
松永の足音が消えるまで、は扉に耳を押し当てていた。
そしてようやくあたりを眺める。
部屋の中には布団一組が置いてある。
天井は高く、窓も高い位置に取り付けられて中からも外からも様子を窺い知ることはできない。
まるでこの世界にだけしか存在しないかのような空間。
は押しつぶされそうな不安とここに来て初めて味わう孤独を感じていた。
「松永様」
松永が軍へと戻るとすでに布陣は布き終わっており、三好兄が傍へと寄ってきた。
「不死香炉は言われたとおりに設置しておきました」
「ご苦労」
「はっ」
兄は報告が終わってもまだ持ち場に戻ろうとしないでそのままそこにいる。
松永は溜息をついた。
「アレなら、屋敷に置いてきた。問題あるまい?」
そう言うとようやく兄は深く頭を下げ、持ち場へと戻っていった。
「さて…」
松永の視線の先にはこちらへと向かってくる片倉の姿があった。
最後の決戦が、今始まる。
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