かすがは、忍んでいた。

(…はどこだ?)

松永の屋敷を隈なく探しているが、が見当たらない。

西国に偵察に来たついでに寄ってやったというのに、留守のようだ。

(松永はいるのに…)

ぼう、と天井裏から文机に向かっている松永の背中を眺める。

「上杉の忍、そんなに見られていては背に穴が開いてしまうよ」

かけられた声にかすがは眉を顰めて松永の後ろに降り立つ。

かすがが降り立つと同時に松永は気だるげに振り向いた。

「何の用だね?」

「…何の用もない」

しかめっ面のままかすがは答えた。

「何も用がないのに、わざわざ忍び込んだのかね?いやはや君は余程暇を持て余しているようだ」

松永の棘のある物言いにかすがは、首を傾げる。

(何か苛立っている、のか?)

「聞きたいことがある」

「ほう…何かね?」

はどこにいる?」

かすがの問いに松永は深く溜息を吐いて徐に巻物をかすがに投げて寄越した。

その巻物は松永の脇に乱雑に積み上げられているものの一つで、一番上に乗っかっていた。

「…時に君は主君に文を出すかね?」

敵国の忍を前にして松永は警戒する素振りがない。

それに逆にかすがは警戒を強めつつ、言葉の真意を探ろうとする。

「…どういう意味だ」

「そのままの意味だよ。何ヶ月も留守にする場合、報告書以外に何かを書いて送るかどうかと聞いているんだ」

呆れたように肩を窄める松永にかすがはその秀麗な顔を歪めた。

そして、ぽっという音が出そうなくらい頬を赤く染めた。

「そ、そんな…謙信様に恋文だなんて…」

「誰もそこまで聞いてないのだがね」

恥らうかすがに松永は冷静に突っ込んだ。

それにさあっと顔色を元に戻してかすがは言う。

「普通なら送るかもしれんな」

そういうのはよくわからんが

「やはり君もそう思うか…」

松永はそう呟きに近い声音で言った。

かすがは、何故か何もしていないのに悪いことをしているような気になってしまった。

(な、何なんだ…この居た堪れない感じは!…あぁぁぁぁもう謙信様、かすがはちょっと寄り道を致しますぅぅぅ)

心の中で上杉に想いを馳せ、かすがはシュッという音と共にその場から消えた。

それを静かに見送った松永は、かすがが消えた場所を見つめて思考を巡らす。

「全く、いつの間に上杉の忍と知り合ったのか…」

色々とに聞かねばならないことが多くなってきたと誰に言うでもなく口にする。

松永の脇に置かれている巻物の山は、片方が三好からの報告書。

もう片方が、放っている忍達からの報告書だ。

忍の方には確実な命の危険がない限り手を出さないように指示をしている。

徳川領での一件ですら、何の助けも出させなかった。

だが、その件で何も自身から音沙汰がない。

上杉の忍は松永にとって計算外れの幸運だった。

松永は、かすがが持っていかれた巻物と同じ内容の三好からの報告書の方に視線を落とす。

文面を指で撫でながら、小さく息を落とし悪い笑みで呟いた。

「瑣末瑣末…」