かすがが去ったその場で、はとても居た堪れない状態になっていた。
「、お前…」
「まさか、ちょくちょく出しているものと…」
「てっきりこっそり出しているのかと…」
三人衆の視線が痛い。
「い、いやぁ?ほ、ほら忙しかったじゃない、ね?」
(うっかりしっかり忘れていた、だなんて…)
えへっと笑顔で誤魔化そうとするが、見破られる。
「誤魔化しても無駄だぞ」
「まったく、お前は」
「俺達ですらちゃんと報告書は書いていたというのに」
は、軽く息を吐く。
「だって、いらないかと思って。添削されて返ってきたし…」
松永からは特に何も返事らしきものもなかった。
余計な時間を取らせてしまったのではないかとか色々ちょっと考えてしまった。
「…」
兄がの肩に手を置く。
「…そんな言い訳をして逃れようなどと思うな」
「バレたか」
考えればわかることだ。
「松永様だからな」
「ともかく今日は書けよ」
「わかったよ」
真面目な弟に言われたら聞かざるを得ない。
「それにしても…」
は疑問を口にする。
「どうやって久秀様はかすがさんを誑し込んだんだろう?」
「「「松永様だからな」」」
それには、三人衆が口を揃えて答えた。
「素敵な回答ありがとう…」
立ち上がり、茶屋を後にする。
「まだ日が高いな。武田まで行こうか今日は」
「そうだな」
「、頑張れるよな、あと少し」
「ん、頑張る」
気合を入れなおして、と三人衆は国境を越えた。
越えたあたりでは本多忠勝団扇をしまう弟達を目の端に捕らえた。
(やっぱりこういうのって、不便だ)
戦国時代というものはそういうものかもしれないが、が生きていたのは別の時代。
その違いを様々なところで感じてしまう。
「国境って気が重い」
「まぁそういうものだ」
境だからこそ警備も厳重だが、目が届きにくいこともあり色々な意味で危険でもある。
この旅の途中何度も通っては来たが今だ慣れない。
(陸続きで国があるってこんな感じなのかな…)
そんなこんなでと三人衆は無事に武田領に入った。
「さてと、本日の宿を取らねばな」
「が文を書かねばならないし」
「日が出ている間に宿に入らないとな」
「…その優しさに涙が出そう」
日はすでにゆっくりと橙色に染まってきていた。
宿が決まるとはすぐに文机に向かわされた。
「そんな、すぐに書けな「書け」…横暴な」
一歩も譲りそうもない兄に、は大きく溜息を吐いて筆を走らせた。
が少し、現実逃避気味に窓の外を見れば、宿の屋根から一羽の烏が、夕焼けの空に飛んでいった。
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