きょとん、という言葉がきっと相応しいだろうとは思う。
一瞬何がどうということでも理解ができていないというわけでもないが、動作が一瞬止まった。
「どういうことだ?兄」
の横にいる弟が鋭く兄に問う。
「言葉の通りだ、兄弟。まぁ寄り道と思えばいいだろう」
寝転がったままの弟がその問いに答えた。
聞いた弟は思い切り顔を顰めて何かを言おうとしたが、
「そーゆーことなので、よろしくお願いね。俺様張り切って警備とか頑張っちゃうからさー」
猿飛が声高に言う声に消されてしまった。
「え、あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
は、猿飛が自分に向けて言ったため、反射的に返事をした。
「流されるな「はーいよろしくねー」…」
それを注意しようとした兄を猿飛が遮る。
兄は渋面を作って猿飛を睨み、猿飛も冴えた光を瞳に宿してそれを受ける。
(火花だ…火花が見える…)
険悪なオカン二人を見ては、じりじりと隣の弟に寄っていく。
寝転がったままの弟はそれらをつまらなそうに見ていた。
実際、を連れて諸国を回るのは危険だと思う。
できうる限りの安全を考えなければ危うい存在であるはすぐに命を絶ってしまいそうだ。
武田にを見せるのは安全ではないかもしれないが、この場、今には最善であるはずだ。
猿飛に知れた時点で諸国に情報が漏れていることは松永様も承知のはず。
無事に大和まで帰れればそれで全てが良い。
これが否なら忍んでいる忍が否と告げるだろうに。
弟は欠伸を一つ零した。
緊張感のないソレに、の視線を感じて口元にやっていた手を振ってやる。
極めつけに口端を上げてやれば、もう一人の弟からの呆れたような視線も降ってきた。
「だが猿飛、今日くらいはゆっくりと休ませてもらえるのだろう?」
の隣にいる弟がもう一人の弟の緊張感のなさに諦めと呆れの溜息を落として猿飛に言う。
「あ、うんうん、もちろん。ちゃん疲れてるだろうしね、俺様も一旦帰って用意しなきゃなんないからゆっくりでも早くでもちゃんと来てくれればそれでいいよ」
猿飛は兄に向けていた視線を弟に向けてへらりと笑って答える。
「ならば早々に出て行け。邪魔だ」
「邪魔って…ああ、布団敷くのね、ごめんねー」
兄が冷たく猿飛に言っていた意味はきっと違ったのだろう。
けれど、さっきまで寝ていた弟が布団を敷きだして、猿飛が邪魔だと言わんばかりにしていたために、猿飛はそう取った。
「それじゃ、また後日に一応迎えに来るからねー」
猿飛はそう言うが否や、ドロンと消えた。
兄が、大袈裟に溜息を吐いて、全身の力を抜く。
「…ちょっと行ってくる」
「俺も行こう。は兄弟と布団を敷いていろ」
兄が立ち上がって部屋を出て行こうとするとの横の弟も行くようで、ともう一人の弟を部屋に残して二人は出て行った。
「そっちの端を持ってろ」
「ん」
四人分の布団を敷き終えて、ごろんと横になる。
「なぁ、嫌だったか?」
弟がを見据えて聞いた。
「う、うーん…よくわからない。けど、久秀様の不利にならなければいいな」
難しいことはわからないけれど、あの人の足を引っ張ることはしたくない。
そうなった時はきっと、私はあの人に殺されるだろうから。
の答えを聞いて、ふむと弟は一頻り考えると、ニヤッと笑んで言った。
「大丈夫だ。兄がなんとかするだろうからな、兄が」
そしてケタケタと笑い出す。
もその笑い声に誘われてつい笑ってしまう。
それが段々激しくなって、二人して転げまわり、折角敷いた布団を滅茶苦茶にしてしまって、帰ってきた兄ともう一人の弟に怒られた。
もうすぐ月が一番高いところにくる時分に、ようやくは眠りについた。
→