宿を出て、澄み切ったどこまでも続く青空に向けては思い切り伸びをした。
「んーーっ」
「いい天気だなぁ」
「そうだな、実に」
「確かにいい天気だ」
勘定を済ませた兄が最後に出てきて、四人は武田信玄の待つ躑躅ヶ崎館に向かう。
しかし、段々と口数が少なくなり、全くの沈黙のまま、四人は歩いていた。
重苦しい空気が漂い、はすっかりこの青空に相応しくない暗雲を心の中に立ち込めさせてしまう。
「…あ」
暫く経ってから、弟が呟いた。
「どうした、兄弟」
もう一人の弟が静かに問う。
「ん、いや、なんか一瞬熱気を感じただけだ」
弟は、そわそわと落ち着かなげに辺りを見回しながら、両手で身体を抱きこんで言う。
「熱気…?」
「熱気…」
「熱気か…」
「ああ、熱気だ」
鸚鵡返しに呟く三人に、弟も繰り返し神妙な面持ちで言った。
「…武田領だからな」
それに、兄がぽつり、と言った。
「武田領だからか」
「武田領だからなんだ」
「そうか。武田領…」
また皆其々繰り返し、一瞬の後、重く息を吐き出した。
「ご、ごめんね。私が、小田原行きたいって言ったからだよね、本当に迷惑かけて」
は耐え切れずに三人に謝ろうとするが途中で手を振られて遮られてしまう。
「これはお前のせいじゃない」
「気にするな」
「この程度のこと、考えていないわけではない」
「でも、」
猶も続けようとするに、兄がぽふ、との頭に手を乗せて言う。
「大丈夫だ。俺達には松永様がついてる」
その瞬間、空気が凍った。
「ひ、久秀様…」
蒼褪めるを横目に弟達は口々に兄に言う。
「あ、兄、逆効果だぞ。それは」
「お、思い出させるな、兄」
「あ、そうか…す、すまん、その、だな、つまり、だな。?あのだな」
兄が慌てて言い繕おうとしていると、見かねた弟達が助け舟を出す。
「大丈夫だぞ。」
「そうだ。そういう時は兄がなんとかするからなー」
「そうそう。松永様は兄を仕置きするからは大丈夫だ」
「うんうん。その通りだ兄弟。兄が全部引き受けるから」
「ちょっと待て。その理論でいくとアレか?俺が全部とばっちりを受けるという、そういうことか?」
兄がどんどん勝手なことを言う弟達に向かって聞く。
「「その通り」」
「コノヤロウ」
声の揃った簡潔な答えが返ってきた。
「まぁすぐにそれどころではなくなるな…」
「ああ、恐らくな」
「気を引き締めてくぞ、」
「うん、ありがと」
いつもどおりの展開にはただただ安心して、頷いた。
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