「さ、ここが躑躅ヶ崎館でござるよ」

と、真田が言って門をくぐってから約十分は歩き続けている。

(確かに、確かにアレだよ、うちも結構門から時間かかるけど、こうもなんかただっ広いとこばっかり通ってると広さ倍増だよ)

いたる所の壁に修繕跡が見られるのも慣れてしまうくらい、長々と歩き続けている。

「お館様は、奥座敷にいらっしゃるのでとりあえずそこまで案内するでござる」

真田が先頭を歩きながらに説明する。

「そこから先は、その、侍女が殿を案内するので、某達と三好殿は修行場に…」

「「「却下」」」

真田の提案には三好三人衆全員が声を揃えて拒否を示した。

「すぐに手合わせとか無理無理」

「休ませろ、少しは」

「一人で信玄公と会わせるわけにはいかない。を」

「まぁ三好の旦那達の言い分は最もだと思いますよ、真田の旦那」

猿飛も口を挿んで、真田の目論見はいとも簡単に失敗した。

「わかったでござる。では日が暮れる前に急ぐでござるよ」

真田はむすっとしたかと思うと、急に歩調を速めた。

そして途中から明らかに走り出した。

「ぅぉぉぉぉおおやかったさばあああぁぁ」

どうやら遠くに武田の姿を見つけたようだ。

「猿飛」

「あーうん、案内俺様がするね。うん、ごめん」

追いかけようと思わず走り出そうとしたを止めて、三好兄は猿飛に声をかけた。

「ぅおやかたさばっあ」

「ゆきむらぁ」

「おっやかったさばぁ」

「ゆっきむるぁあ」

殴り合っている声がそこまで届くが、視覚ではまだ掌ほどの大きさだ。

「き、緊張してきた…」

は、いよいよ武田に会うのだと汗ばむ掌を隠すように、兄の服の裾をきゅっと握る。

の手を上から優しく握って兄は諭すように言う。

「大丈夫だ。俺達がいる」

「そうそう俺様がいるからさー」

「「違うだろ、お前は」」

茶化すように猿飛がを覗き込むと、三好弟達が突っ込んだ。

「ぅおやかったさっばぁ」

「ゆぅきむるぁぁ」

段々と二人の声も姿も大きくなる。

「ぅぉぉおやかたさばぁぁ」

「ゆっきむるぁぁ」

丁度後少しで二人が殴り合っている現場に着く辺りでは猿飛に尋ねた。

「えーっと、佐助さん、これってどうしたらいいんですか?」

「んーそうだねぇ、とりあえず落ち着くまで安全なとこで待ってようか」

あんまり長引きそうなら最悪俺様が…うん、頑張るよ

猿飛は物凄く嫌そうな顔で答えた。

「ここら辺でいいだろう」

「…痛そうだな」

「寧ろ熱いな」

「凄い…」

と三人衆と猿飛は安全そうな場所で一旦止まって、真田と武田の殴り合いを眺める。

あっまた壁壊したっ…え、ちょ待ってよ大将、そこに飛ばしちゃ…ってあーあ…」

猿飛は、殴り合いを見ながら気が気でない。

壁やら庭やらが壊されていく様をありありと見せ付けられるのだ。

これの片付けをさせられると考えると猿飛は頭が痛くなりそうだった。

ほんとこれ時間外労働もいいとこなんですけどーーー!

真田と武田の殴り合いは、真田が池に落っこちるまで続いた。