真田が池に落ちて、這い上がってきてからすぐに猿飛が手拭いを渡して拭かせている間に、武田とと三好三人衆は座敷へと上がらせてもらった。

「ワシが甲斐の虎、武田信玄よ」

上座に座り、威厳たっぷりに言う武田。

まさにが思い描いていたようなその風貌に、は畏れながらちょこんと武田の正面に正座していた。

三人衆はの一歩後ろに同じように正座をしている。

「お初にお目にかかります、と申します」

三好兄と作法の先生に教わっていた通りに礼をする。

「うむ。その後ろは三好三人衆で相違ないな」

「是」

三人衆は短く答えた。

「まずは、遠く大和からよくぞここまで来た。目的地は小田原と聞いておるが、女子が旅をするにはちと遠かったろう」

武田から労いの言葉を頂いて、はただただ畏まる。

「勿体ないお言葉、ありがとうございます」

深々と頭を下げる。

武田は、その様子に少し驚いて、笑う。

「そのように畏まらずともよい、もっと楽にせい。何もそなたらと軍に関わる話をしようとは思うておらぬわ」

え、とが顔を上げれば、武田は声を上げて笑った。

「はっは、此度の旅はそなたの個人的なものと聞いておった。ただワシがそなたと話をしてみたかった、それだけのために呼んだのじゃ。旅を中断させてすまないのう」

「あ、い、いえ!私も信玄公とお話させていただいて嬉しいです」

武田の謝罪の言葉には勢いよく言ってしまう。

「うむ、ワシも嬉しい。たまには若い者と話すのもよいものじゃ」

ににこりと武田は笑んで言うと、乾いた真田が座敷に上がって言う。

「お館様はまだまだ若うございます」

「はは、そうじゃの、まだまだ若い者には負けられん」

にこにこと交わされる主従の会話に、は、ちょっと感動した。

(これだ、これだよ、さすが武田軍、っていうかほんと本物っぽい…!っていうか本物なんだけど)

ふと、気がつけば凄い人たちに囲まれているのだと、思い直す。

しかし、今はそんなことを考えている場合ではないと振り切る。

「松永がそなたを如何に大事にしておるか、手に取るようにわかる。今日はゆうるりとしていくがよい」

降ってきた言葉に、畳に向かって苦い笑みを浮かべる。

「ありがたき幸せ、お気遣い痛み入ります」

そして、その苦笑を引っ込めてから顔を上げた。

「さすがお館様でござるっ殿、何かあったら某や佐助にも是非申し付けてくだされ!」

真田が武田に倣ってに言う。

はそれには、真田にちょっと困ったように笑んで答えた。

「はい、ありがとうございます」

「旦那に言ってね、ちゃん。俺様忙しいから、ほんと」

庭やら壁やらの修理を終えた猿飛が座敷に上がりながら軽く言った。

「佐助っ飯の支度はまだか?」

猿飛を視界に入れた真田はすぐに猿飛に言った。

「まだです。というわけなので大将、真田の旦那は三好の旦那達と手合わせをさせてあげてください。その間に俺様が夕餉の支度をしてきますから」

「うむ、ご苦労、佐助」

武田が猿飛を労うと、真田がぴょんと立ち上がって三人衆に言う。

「ささっ三好殿!手合わせと致しましょうぞ!」

「旦那、夕餉までだからね」

「わかっておるっ」

猿飛が厨に行く前に顔だけ出して真田に釘を刺していった。

「やれやれ…」

「仕方ない…」

「鋭く素早くやるか…」

三人衆も立ち上がって真田と一緒にまた外に出る。

も続こうとしたけれど、武田がおいでおいでと手招きしていたので従った。

「少し離れたとこから見るほうがよかろう。怪我をしてはいかん」

「ありがとうございます」

そして、は武田と一緒に猿飛が「夕餉の時間ですよー」と言うまで、真田と三人衆の手合わせを見ていた。