が視界に捉えたのは、柱からはみ出している茶色いピンピン跳ねた髪と赤い鉢巻だった。
「…何してらっしゃるんですか、真田様」
「…う、バレたでござる」
柱からひょっこりと出てきた真田は、うーだのあーだの言いながらのところまでやってきた。
「こ、こんな夜更けに危険でござろうと見張ってたのでござるよ」
「それなら別に柱に隠れていなくても…」
「だ、駄目でござる。は、破廉恥な…」
そういう真田はすでに顔が真っ赤だ。
はそれでもどうぞ、と横を指して真田を座らせた。
そして空を見上げて言い、
「…綺麗な満月ですね」
「誠、美しいでござるな」
真田の顔はあえて見ない振りで話題を変える。
は、今までぐるぐると思考が回っていたことを真田に話してもよいものかと思いながらも、口にした。
「…私、わからないんです」
月を見ていると、思いだす。
かぐや姫。
彼女はどうして月に帰ったのだろう。
元々そのつもりで過ごしていたからなのだろうけど。
私はそんなキャラではないけれど。
なんとなく、被ってしまう。
選択を、迫られている気がして。
「私は、帰るべきなのでしょうか」
「松永のところでござるか?」
真田に言われて思う。
あの人。
「いいえ、家族のもとに。あちらに残してきた人達のもとに。やりたいこと、やり残したこと、いっぱいあります」
は、月を見つめ続ける。
「けれど、わからないのです。帰りたいのか、ここに、ずっと留まりたいのか」
「殿」
真摯な声音で呼ばれて、は真田に視線を移す。
「某は、殿の事情はわからぬが、一つだけわかったでござる」
真田はにこりと笑んだ。
「帰るべきかどうかわからぬというのならばまだその時ではないのではござらぬか?某はまだ殿がここにいてもいいからこうしているのだと思う」
はゆっくりと瞬きをして真田を見る。
「まだ時間があるのならばもう少し、ここにいたらいいと思う。某はそれはとても有り難いことだと思うでござるよ」
「有り難い、こと」
真田の言い方が、いつも聞く「ありがたい」とは少し違う気がした。
「有り難い、有ることが難しいと書くでござろう?今こうして有ることは簡単に見えてとても難しいことでござる、それを為していることはとても素晴らしいことであるという意味でござる」
そう言って真田は月を見上げる。
「まだ、月に帰るには早いでござるよ。殿」
は一瞬瞼を閉じて、真田と同じように視線を月に戻した。
暫く無言で、二人は月を見上げていた。
「あ、しかし、そろそろお休みになられては如何だろうか?悩むことや迷うことも大切だとは思うが、何よりも体が一番大事でござる」
真田の気遣いに、は微笑んで礼を言う。
「ありがとうございます。その、色々と。少し、すっきりしました」
「そうでござるか、よかった。こういうことは佐助のほうが得意やもしれぬと焦っていたところでござる」
困ったように笑う真田に、は思わず噴出した。
「真田様、本当にありがとうございました」
けれどすぐに笑いを引っ込めて今度は真剣に真田に頭を下げた。
「某でもお力になれて嬉しかったでござる。ゆるりと休まれよ、殿」
「はい、ありがとうございます」
((成長したな…旦那(真田)))
そんな話を天井裏と部屋で聞いていた二人のオカンはこっそり感動していたりしていた。
→