真田はうきうきと旅支度をする。
必ずやお館様の期待に応えてみせまするぞぉぉぉぉ!!
心の中で熱く叫びながら。
「…旦那、その、旅費のことなんだけど…」
襖から猿飛が申し訳なさそうにして顔を出す。
「なんだ?佐助」
真田は一旦手を止めて猿飛を見る。
「全額俺様負担ってことは、さすがにないですよね?」
若干、猿飛の顔が蒼褪めているのは気のせいではないのだろう。
声も震えている気がする。
「なんだ。そのことを気にしておったのか」
真田は体ごと猿飛に向ける。
「無論。そのようなこと、あるわけがなかろう。あれはお館様の冗談だ」
真田の言葉に猿飛は大きく息を吐いて安堵する。
「ただ、」
「ただ?」
しかし真田の言葉に敏感に反応し、猿飛の雰囲気が鋭くなる。
「道中ではそなたが代わりに払うことになろう。要するに、後払い?というやつだな」
「なんで疑問符ついてるんですか…まさか払ってもらえないとかっ」
息巻く猿飛に真田は両手で否定を表す。
「そのようなことあるわけがない!佐助、そなた我武田軍をどのように考えておるのだっ」
「いえ、ちゃんと払ってもらえるならいいんです」
「当たり前だ!」
がっと吼えるように言う真田に猿飛は、シュッと天井裏に上がる。
「それを聞いて安心しましたよ、旦那荷造り急いでくださいね」
「承知!」
真田は急いで旅支度を整えた。
「すまぬが何卒頼む」
「いいえこちらこそ、願ってもみないことです。ありがたくお受けいたしております」
「信玄公。我々は道中を安全に進むことができるだけでありがたい」
「それを考えれば真田の一人や二人問題ない」
「全額そちらの負担であれば我々も本当に助かる」
門に程近いところの縁側で、武田とと三好三人衆は真田と猿飛を待っていた。
「最近は尾張のも越後の軍神も大人しくしておる。滅多なことはないじゃろうが、気をつけて行くのじゃぞ」
「はい、ありがとうございます」
(だってかすがさん真昼間から堂々としてたからなぁ…)
武田の言葉には思わず先日会った麗しい忍を思い出していた。
「…ぅおやかたさばあぁぁぁ!!」
庭の奥から真田が旅装束で叫びながら走ってきた。
武田はそれを見とめると、草履を履いて庭に下りて迎える。
「んむ。幸村ぁぁ!」
「ぅおやかたさばぁぁ!某、用意できましたでござるぅぁぁぁ!」
「行って参れ幸村ぁぁ」
「某必ずやお役目を果たしてみせまするぅぅ!!」
「その意気じゃぁぁ!」
「ぅおやかたさっばぁ」
「ゆぅきむらぁぁ」
この殴り合いが始まると、と三人衆は、すぐに距離を取り被害は耳が痛いくらいですんだ。
「やれやれ、困ったお人達だねぇ」
にゅっと猿飛がと三人衆の後ろから顔を出した。
「早く止めろ、猿飛」
「はいはい。わっかりましたよっと…ほら大将!旦那!ちゃんが待ってますんで立ちますよ!…グハッ」
殴り合いを身を削りながら猿飛が止めて、躑躅ヶ崎館を立ったのは、それから十五分くらい後だった。
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