真田も猿飛もいつもの格好ではなく、町人にとけ込むような軽装である。

いつもと違う格好にはちらちらと視線をやってしまうのはどうしようもないことだと思いたい。

「むぅ…心なしか動き辛いでござるなぁ」

首やら肩やらを回しながら真田が呟く。

「旦那、だからと言ってそこらへんで脱ぎ捨てたりしないでくださいね」

破廉恥ですから

そう言う猿飛はペイントも書いてないし、どこからどう見てもただの町人にしか見えないくらい完璧にとけ込んでいる。

(完璧だ…さすが佐助さん。伊達に忍じゃない…)

三人衆は面外して格好をそれなりにすればあっさり町人だが、真田や猿飛は見た目が見た目なだけにそうあっさりとはいかなかった。

が、猿飛は忍、変装はお手の物だ。

心なしか猿飛の雰囲気すら変わっている気がする。

「ん…殿、いかがなされた?」

ちらと見た時に真田と視線が合った。

「え、いや、…なんでもない、です」

(服装が違うだけで印象が違いすぎる、だなんて)

言えるわけがない。

真田は首を傾げて、「そうでござるか」と言った。

真田の様子はどこぞの若殿がお忍びで遊びに来たような風体だ。

悪目立ちしかねないが、なんとかいいとこのお坊ちゃんですむように祈るしかない。

それにしても、とは思う。

「でねぇ、いっつもなわけ、これが」

「そうだろうな、いやしかし、それがまたこちらとしては耐えられる程度で留められてしまうのだろう」

「そうそうっどうしてあーも計算してない頭してさー」

三好兄は主がこの場にいないけれど、猿飛は主がそのままこの場にいるというのに、愚痴愚痴愚痴といいのだろうか。

その意も込めて真田を窺うのは仕方のないことだ。

「どうした、真田ばかり見て」

「そんなに赤くない真田が面白いか?」

さっきまでオカン同士の愚痴を静かに聴いていた弟達がに寄ってきて言う。

違う。確かにそれもあるけど…佐助さんの愚痴って悪口に近い気がして」

はこそり、と真田と猿飛に聞こえないように弟達に言う。

弟達はそれに、ああ、と頷く。

「そんな冗談が通じるほどいい関係なのだろう」

「真田がただ単に聞いてない可能性もあるがな」

ちらと三人が視線だけを動かして真田を見れば、真田は辺りの景色を穏やかな目で見つめている。

まるで、後ろの愚痴が聞こえないかのように。

いや、実際聞こえてはいるが聞いてはいないのかもしれない。

「あそこだけ世界が違う気がするよ」

「意識がどこかに飛んでいるというか」

「静かな真田など真田ではない気がするな」

こそこそとまた三人で額をつき合せて言う。

「あ」

真田が思い出したように声を上げた。

「なんですか?旦那。お腹すいたんですか?」

「もう休憩か?真田」

愚痴を一旦止めてオカン達が口々に真田に言う。

「ち、違うっそなたら、某を何と思っておるのだ」

「じゃーなんですか?もよおしましたか?」

佐助っ殿の前でそのような…!それも違うっ

真っ赤になって真田は猿飛に叫ぶ。

猿飛は耳を押さえて言う。

「なんですか?茶屋ならまだ当分かかりますよ」

「そうではない…全く、いや国境の門を松永に突破された時のことを思い出したのだ」

はあと真田は溜息を吐くと、に向き直って言った。

「あの時、殿もおられたであろう?門が焼け落ちた直後だった故、怪我などなされなかったろうかと今更ながらに思ったのだ」

言われた言葉にはぱちぱちと瞬きを繰り返す。

脳裏にはあの赤い夜が映し出されていった。