は懐に入れなおした小刀の存在を感じ安堵しながら歩く。
そしてその持ち主のことを思い浮かべるのは極自然なことで、気持ちを北へ馳せたなら今度はそこから段々南下していくばかりだ。
最終的には、松永と、それから風魔のことが頭の中を支配する。
風魔が仮に生きていたとしても、どうやったら彼に会うことができるのだろうかとか松永に帰ったらどんなことを話そうかとか、つまり心ここに在らずという状態で道を歩いていれば当然、
「あ、」
足元の注意が散漫になり、躓くこともある。
「っと、大丈夫?ちゃん」
「気をつけろよ」
「まだ道が」
「悪いのだからな」
猿飛が機敏な動きでを支えれば左右後方から三好三人衆が口々に言う。
「ありがとうございます佐助さん」
「いえいえーちゃんとあと少しでお別れと思うと寂しいねぇ」
あ、三好の旦那達との別れは全然寂しくないけど
「そうですねぇもう少しですから」
俺達は寂しいぞ猿飛
ああ、寂しいな
なくなるからな、財布が
「うんうん、ほんと楽しかったよ、懐が痛かったけど」
三好の旦那達、いい加減俺様泣きそうだから勘弁して
「私も楽しかったです。ありがとうございました、本当に色々と」
苦労をかけるな、猿飛
いやあ、助かったぞ猿飛
礼を言うぞ猿飛
合間合間に三人衆が猿飛をからかうと、猿飛はついに黙り込んで無言の抗議をする。
じとっとした視線を三人衆に向ける猿飛だが、彼等は何処吹く風といった風だ。
「真田様も、こんな遠いところまでご足労いただきましてありがとうございました」
無言の威圧感を漂わせる三人衆と猿飛から少し後ろに下がって真田に礼を言う。
先ほどから何事かを考えている様子であった真田は、に言われて一瞬はっとしてすぐに笑みを浮かべる。
「なに、こちらこそ。いつもとは違う経験をさせていただいたでござるよ」
「それは何よりです」
心の底からそう思ってが言うと、真田は言葉を探すように口を開きかけて、閉じた。
はそれがわかったから、真田が言葉を見出すまで待つ。
「…某は、いつか政宗殿もお館様も越えてみたいでござる」
ぽつり、と小さな声音だった。
「無論、某はまだまだ未熟者で、お館様の足元にも及ばないことはわかっているでござる」
けれど、と続けた言葉は強い意志に満ち溢れていた。
「いつか誰よりも強い男になってみせるでござる!」
その真田の宣言に前を歩いていた猿飛と三人衆が驚いて振り返る。
「このように旅をしてみてそのように強く思ったのでござる。やはりお館様は凄いでござるなぁ」
うんうんと一人納得して頷く真田にも三人衆も猿飛も首を傾げる。
(((((そんなこと、信玄公(大将)言ってたっけ)))))
しかし、一人で満足している真田には周りのことなど目にも入らず今はもうすっきり上機嫌で歩き続ける。
真田が旅立つ前の殴り合いの最中、武田が真田に決意を見出せと言っていたとは、真田以外の誰もこの場では知らない。
ただも三人衆も猿飛も首を傾げ、そのうちまぁいいかと気にしなくなる。
目標を持つことは、良いことだ。
真田を見ながら、三人衆も何か目標を立ててみようかと思ったり、猿飛はまだまだ財布の具合を心配したり、はこれからのことを考えたりしていた。
五人を照らす光は橙色で、ゆっくりと景色を染めていく。
宿場に着けば我先にと、疲れを癒そうとしたのは言うまでもない。
北条との国境がもうすぐそこに、旅の目的地まであともう少しだ。
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