初めに目に入ったのは白と黒。
所々に映える黄。
しかし、姿形を捉えずとも、感覚でわかるその人と。
「ひ、さ、ひで、さ、ま…?」
あまりにも長い間、離れていた。
けれど、会うことが叶うのはまだまだ遠い未来と思っていた。
疑問と喜びと落胆と安堵と、感情が渦巻いて落ちて消える。
次にやってくるは、驚愕。
大きく息を吸うと、思わず叫ぶ。
「っは――――――!?久秀様ですか――――――――!?」
愕然と叫ぶに、とっさに三好兄と弟の一人は俯く。
すまんと弟よ
「やれやれ、主の顔を見忘れたかね?卿の記憶力の悪さには恐れ入るよ」
の目の前にいる人は、耳を塞いでいた両の手を外して、眉根を寄せる。
「え、な、どっ、ちょ…!!」
ぱくぱくと口を開けたり閉めたりしながらは縋るように隣の兄を見上げる。
「っあーそのな、アレでな、まぁその、なんだ、…松永様だ」
ばばんと両手で松永を指し示す兄にはもうなんだか武田軍の殴り愛に兄をぶち込みたいと思った。
ちなみにもう一人の弟も知らされていなかったため、と同じことを考えていた。
松永といえば、小田原城の天守で悠然と茶を立てていた。
「北条の、一杯どうかね?」
「むむ、結構な手前じゃのぅ」
天守には、赤い毛氈が敷かれてそこに松永と北条が向かい合って座っている。
空気もなんだか和やかだ。
なんか違う。
さっきまでももっとこう…殺伐とした…戦、そう、戦だったはずじゃ…!
「瑣末瑣末、卿は結構根に持つな」
「戦は瑣末ではありません!」
のほほんと(松永にはとても似合わない形容詞だが)答える松永に、がびしりと言い放つ。
それに松永は、ふむと口髭に指を這わせて、暫し考える素振りの後を見つめた。
「ところで、卿は目的を果たさなくてよいのかね?」
その言葉ではっとしては北条氏政に向き直る。
「北条氏政公、お初にお目にかかりますと申します。この度は松永久秀様共々大変、ご迷惑をおかけいたしまして、申し訳ございません」
「ふぇしぇっ偉大なる北条家はそのような小さきことは気にせん。ところでお主らはこの小田原に何の用で参ったのぢゃ?」
松永にもう一杯お茶を立ててもらいながら北条が首を傾げた。
「あ、あの、風魔、風魔さんはこちらにいらっしゃらないかと思いまして」
どくりどくり、心臓が大きく波打つ。
彼は生きて、いるのだろうか。
この思いを伝えることができるのだろうか。
全ての答えを聞く、その問いを投げかけた。
「なんじゃ、風魔に用とな。暫し待て」
あっさりと。
あまりにもあっさりと北条は言うと、立ち上がって全力で風を呼ぶ。
「風魔―――!風魔ぁ――――!!」
するとすぐに一陣の風が巻き起こり風魔が現れた。
「ひょぇぇっふ、風魔、きゅ、急に現れるでないわ」
北条が心臓を押さえながら言うのに、恐らくその場のほぼ全員が無理を言うなと心の中で突っ込んだことだろう。
風魔は真面目にそれに頷いていたが。
赤い髪、風を纏い、黒く鈍く光る兜を目深に被り、井出達も依然と全く変わらない第一衣装。
は心の底から安堵の息を吐き出した。
「風魔さん…よかった、生きてたんですね」
いつも心の隅に抱えていた喪失感が埋められた。
「風魔、このお嬢さんがお主に用があるそうぢゃ。わしらは席を外すぞい」
北条は、前半は風魔に、後半は松永と三好三人衆に向けて言った。
「え、や、そこまでしていただかなくても…そんな…」
「かかか、気にすることはないのぢゃ」
なんかそう席を設けられたりすると気恥ずかしさが一気に加速する。
若いもんはいいのぅなんて言いながら北条は松永と三好三人衆を屋敷の方へと連れて行ってしまった。
ちらりとこちらを向いた松永の凶悪な笑みがを恐怖させたが、最早後の祭りである。
(でも目的を果たせって言ったのは久秀様なのに…)
大体松永は自分の思い通りにならなければ大抵気に食わないのだ。
北条が、ではなく、松永が席を外すと言っていたのならばまた違っただろう。
再会した早々、松永に振り回されているとは心の中で苦笑した。
そして目の前の風魔に向き直った。
じぃと静かに見詰める視線を感じながら。
この瞬間のために大和から歩いてやってきた。
今、叶う。
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